ネタバレ感想 船津紳平 他 『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』1巻


金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(1) (週刊少年マガジンコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「止めろ金田一! 俺のトリックを暴くな!」。
探偵物漫画では言わずと知れたビックネーム、『金田一少年の事件簿』のスピンオフ外伝の登場です。誰にフューチャー? そんなもの、犯人たちに決まっているじゃないですか!
ということで、犯人視点で金田一一にトリックを暴かれたりするさまを見守る漫画。それが『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』なのです。
犯人視点! というのは目から鱗が落ちるレベルの慧眼です。あるいはポエット! 何たる機知! というべき、まさしくその手がありましたか! なものです。最近はある漫画の別視点というのは結構ありますが、その中でも図抜けているのが、この漫画と言えるでしょう。
どこをもってそう断じれるか、というと、やはり当時の読者が「冷静に考えるとこれなんかおかしくねえか?」と思っていた部分をきっちり拾いきる所作に、それはあります。その、「おかしくねえか?」の最たるものは、金田一少年最初の事件、<オペラ座館殺人事件>における、犯人の初手、包帯ぐるぐる巻きに帽子とコートの姿でオペラ座館にチェックインする所でしょう。誰しも「あれでなんでチェックイン出来たんだ? すこぶる怪しいにも程があるだろう!」という部分をきっちりとネタとして昇華している辺り、手練れの犯行と言って差し支えありません。ホテル支配人の「ここを聞きすぎると、気分を害されるだろうし……」という考えの方も成程自然であり、そこを持ってこの漫画が傑作の域にあると断言できるほどです。
ただ、全体的に笑いの方に盛っている内容なので、例えば<オペラ座館殺人事件>の恋人を自殺に追いやった奴らへの復讐を! という悲壮な部分が笑いによって薄れている点は痛し痒しというところでしょうか。全体的に殺人事件なのに笑いに、というのも、現実ではないとはいえ、倫理的にどうなのか、という言葉も出てくるかと思います。その辺が引っかかる人には引っかかるかもしれません。
ですが、そういうのがあんまりないのは面白みをもって見る事が出来ます。この巻ですと、<学園七不思議殺人事件>がそれです。犯人が保身の為に犯行を積み重ねるこの事件では、その動きが大変滑稽に映るようになっています。必死に頑張るけどどうにもならない! という部分は見ていてざまあ! という一種快感すら覚えるものです。最終的に金田一に自分が咄嗟に思い付いたけどかなりいいトリックをあっさりと見破られてしまう辺りは、犯人側から見ているのにカタルシスがしっかりあります。
さておき。
この漫画の些事ながらも面白みの強さが出る部分は、犯人たちの行動もですが、細かい原作の小ネタの使い方にもあります。<蝋人形城殺人事件>の蝋人形を犯人が自分で作ったとか、<学園七不思議殺人事件>での真壁のポスターが異様なほどはがされそうになるとか、きっちりネタとして昇華しているんです。この辺の小技も、この漫画の良さの一端となっています。真壁のポスターがやたらはがされそうになるのは、原作読んでた時分でもなんでこんなに……。って思っていたので、拾われてて大変嬉しかったりしました。きっちりとした原作リスペクトも、またこの漫画の一側面なのです。発想のネタ度の高さだけに寄り立たないのは素晴らしい。今後もしっかりやっていってほしい所です。
とかなんとか。