感想 泉仁優一 『ヤオチノ乱』1巻

ヤオチノ乱(1) (アフタヌーンKC)
ヤオチノ乱(1) (コミックDAYSコミックス)

 大体の内容「現代に生きる忍びの戦い!」。と書くとニンポだ! ニンポ使うぞ! というのを現代的にやってくるのか、と思いがちですが、そういう派手さは一切なく、ストイックに、只ストイックに街中サバイバルをする漫画。それが『ヤオチノ乱』なのです。
 この漫画、先述の通り派手さは一切ありません。現代の街中でバトルロワイヤルをする漫画ですが、参加者がお互い誰が参加者なのか分からないという状態で開始されており、つまり正体が露見するのは危険なので、派手なことは皆出来ない。よって銃器などの使用はあり得ないし、人目のつくところでの大立ち回りなんて愚の骨頂なのです。そうなれば、当然小細工重視。隠密重視。なので、内容的に派手なことはそうそうない、と思っていただきたい。
 ですが、この隠密重視が逆にこの漫画の良さとして立ち上がっているのです。街中で既定の金しか持たず、更に4日以上経つと発動する蜘蛛の毒から身を守る為に、参加者同士が持つ解毒剤入りペンダントを奪い合う。その制約の中で街の中でサバイバルするという、この限定的な試合が、しかしだからこそ大変な奥行きをもって描かれるのです。そもそも街中なのにサバイバル! という段階でこの漫画は素晴らしいと分かる人には分かって頂けるでしょうが、そうでなくても、如何に安全な寝所を手に入れるか、とか、如何に相手の事を参加者だと確信するか、とか、そして如何に相手を打破するか、とか、とにかくこんな狭い世界のアイデン&ティティでここまで芳醇に出来るのか、というのを確認すれば、自然この漫画の凄みが分かってくるかと思います。
 個人的に一番好きなところは、漫画喫茶を舞台に色んな小細工をかますところ。一旦部屋から出て、違う部屋にあたかも人がいるように符丁を使って入って、ということは前の部屋で待ち伏せすれば、と相手に思わせておいてからの伏兵! という本当に派手さのない細かい積み重ねがきっちりと効いてくるのが大好きです。それでいて伏兵が通じない可能性を考慮に入れて相手のその後の行動読んで待ち伏せで倒す、というのが更に好きです。この思考の読みの細かさとか、大変いいのですよ。この細かさにぐっとくるかどうかでこの漫画が好きになる否かがジャッジされるところでもあります。
 というか、本当にこの漫画の街中隠形とその細やかさは味わい深いです。街中隠形の知識というのを、この作者、毎度街中に行ったらそう言うの考えていたんだろうなあ、というレベルで地に足が付いており、色んな場所の死角とか、あるいは寝るのに適した場所とかを探すのは楽しかったんだろうなあ、と勝手に思わせるものがあります。先述の漫画喫茶での攻防も、当然その一部です。そして、この漫画を見ると、その思考の迸りに影響されて、街中で隠形する方法の実践がしたくなります。コワイ!
 この隠形、単に姿を隠すというのではありません。人がいる中でそれを刷れば逆に目立つものです。なので人に紛れて目立たない方向でやっています。喋る時も、ひそひそしないでちょっと周りの声に紛れるように。こういう特異な技術をちらちらと魅せてくる様、というのは洋ドラマの『バーンノーティス』のスパイ技術の探偵仕事への応用のそれに近いものがあり、そういうのもあるのか。という知識欲を刺激してくるのも、この漫画の良い所でありましょう。
 さておき。
 バトルロワイヤル方向でもこの漫画は中々特異です。わりとシステムの弱点を狙う動きを、参加者がしようとするからです。負けても、毒で速攻ヤバくなるわけではない。なら上手く奪って逃げきれれば! とかやりだすのです。そこはきっちり咎められますが、もう一つ、このバトルロワイヤルはカラスを色々使っている訳なんですが、それを逆に利用しよう、という動きを見せる輩もいたりします。しかし、こっちは咎められません。これは殺すのはあかんで。でも、それ以外なら別にどうしてもええで。という主催者側の意向だったりします。そのカラスを何かに使う、というのが垣間見れる、かと思った所で次の巻に持ち越しとなりました。果たして、カラスの何を使ったのやらですが、しかし主催者側のやたら柔軟な対応が印象に残ります。それだけ、このバトルロワイヤルがガチなのである、ということでもありますが、その柔軟さがその組織を支える基盤なんだろうなあ、とも思えます。今の時代に忍び、というのなら、あるいはそうなるべきなのかもしれません。
「まとめ。そうねえ。2巻が電書のみとかになりそうというのがマジ勿体ないから皆もっと読んだ方がいいんじゃないの?」
「そうですね」