感想 小箱とたん 『スケッチブック』14巻

スケッチブック 14巻 (ブレイドコミックス)
スケッチブック 14 (BLADEコミックス)

 大体の内容。「いつもと違い、いつもと違うが、いつも通り」。あるいは終わらないのが終わり。それがゴールド小箱とたんレクイエム。そんな戯言を言いたくなるくらい、違うし違うはずだけどいつも通りを貫いたのが、『スケッチブック』14巻なのです。
 この漫画も長丁場。15年近くやっていた訳で、そりゃあ梶原さんのキャラが変化するのもむべなるかななんですが、それでもこの漫画の持つ雰囲気というのは変わらずやってきたと思います。初期に比べると鳥飼さんの小市民ネタが枯渇したり、麻生さんの存在感の変転が面白かったり、涼風コンビやケイトのせいかおかげかとにかく空閑先輩の存在感が薄れていったり、栗原先輩の自然ネタが横溢したり、ケイトの存在を使ったネタが縦横無尽だったりしまりしましたが。いや、結構変わっている!
 などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。と家弓家正声がするっと。確かに、梶原さんは初期のちょっと不思議で儚げで不思議な感じから、力強く不思議な子になりました。しかし、ベースとなる作品の転調とまで言えるか。梶原さんの変転をしても、空閑先輩が存在感薄れても、ケイトが爆裂しても、それでもこの漫画の持つものに変化はあったか、と言うと無かったんじゃないか、という感想がまろび出てしまいます。
 絶対に違う、と言い切ってもいいのに、なんだかそうではなく、この漫画持つ稀有なものは、残り続けて味わわされ続けたのではないか。それがこの長期連載に繋がったのではないか。そういう感想すら出てきます。
 ではそれは何か、と言われると、やはり空気感、という言葉が一番しっくりくるのです。が、この場合の空気感というのが、00年代の空気系という型のそのアトモスフィアとははっきりと違うタイプのスタンドだと言えるのもまた、『スケッチブック』の存在感です。単にギャグ調でもなく、かといって空気の良さが無い訳でもない。でもどちらとも特化した形ではない、というか自然ネタの横溢は空気系という言葉とはまた違う側面をすすっとおもてなしされている感じ。こ、こは何事……?
 錯乱はさておき。
 もしかすると、『スケッチブック』の真価とは、涼風コンビにあるのでは? ←まだ錯乱している
 いやいや、マジで。あの二人が近接してからこっちの『スケッチブック』というのは、流れに困ったらあの二人を外接すればいいや、という油断、というか慧眼に満ちていたのではないか。あの二人が起動すれば、たちまち『スケッチブック』のギャグ調の行進が始まります。今までしていた話のまとめて尺が余ったら、ぶっこんじゃえばいいんだよ! そういう思慮が深まっていたのではないか。
 実際、涼風コンビが締めを仰せつかる流れは結構あります。あるいはオチではなく一段落として外接する場合もあります。共通するのは、それで流れを完全に断ち切る形になる事。まあ、涼風コンビだし、こんなボケた、多重な意味で、展開でもしょうがないか。そういう予断を我々に与えてくれる、あるいはデウスエクスマキナだったのでは? そう考えた我々は『スケッチブック』再読の行動を開始した!
 してません! やりたいしするけど、今じゃない!
 さておき。
 この漫画の流れというのは、涼風コンビで統御されていた、という驚きの勘が冴えてしまいましたが、案外あの二人のノリ、というのがこの漫画のノリとして状況を支配していた、というのはあり得るかもしれないと思い始めました。
 思えば、涼風コンビのネタというのは、がっと笑わせるタイプでも、くすりとさせるタイプでもなく、え、あ、うん。うん? という戸惑いから生まれる妙てけれんな笑みと言いましょうか、およそ空気系が持つにはおかしいリソースです。そこにいろんなネタがまき散らかされ、ジャミングされていますが、基本となるそれは、一つも揺らいではいなかった。あるいは、梶原さんの初期の雰囲気もそっち寄りであったけど、涼風コンビの登場でそこからじんわりと足を抜けた、からのダイナミック梶原さん爆誕かもしれません。確かに、初期の梶原さんというのは不思議と儚さと不思議を掛け合わせて不思議が多い! な動きをしてたけど、あれも当惑の笑みをさせられる変な味わいだったよなあ。
 そう考えると、色々なネタがあったにしても、最終的に同じ空気感が続いていた、というのは成程、そういうことなのか。そう勘違いをしたいと思います。
 さておき。
 そう考えると、最終回の後にあった描き下ろしの良く訳の分からない感じも、この漫画の基本とはここなのだ、という示しとして感ぜられます。おそらく後世に残らないだろう見事な見開きボケの唐突具合とか、みなもんの妙な存在感で押していく感じも、涼風コンビのそれと軌を一にしている。この、妙てけれんこそ、『スケッチブック』だったんだ! 父さん、見えないの! 『スケッチブック』がいる! 怖いよ!
 個人的な好きだったキャラ話をシマショウ。←唐突
 というか、やっぱりケイトなんですよ。自分のストライクゾーンからするとやや内角低めで判断が難しい球ですが、これがもうてきめんに。どうしてこんなに好きなのかよく分からないんですが、それを今解明しようとして、荒く感じるのも勿体ないと思うので、終生の疑問として墓場まで持って行こうかと思います。←そこまでの話か
 いや本当、ケイトの良さというのはいくらで出てきますが、出てき過ぎてよく分からないというか、それ一挙手一投足じゃねえか! なのでどうしたらいいのか分かりません。誰か、助けて……。ケイトの良さを俺にレクチャーして……。←好き過ぎておかしく
 と錯乱しましたが、とりあえずこの困惑の大笑みを与えてくる作風で、次はどういう漫画を描くのか、小箱とたん! とやっぱり錯乱したままこの項を閉じたいと思います。一生どこへでも、ついていきます! ←落ち着け