ネタバレ感想 篠房六郎 『おやすみシェヘラザード』2巻

おやすみシェヘラザード(2) (ビッグコミックススペシャル)
おやすみシェヘラザード(2) (ビッグコミックススペシャル)

 大体の内容「なんか百合の三角関係なんだがその一翼が確実におかしい件について」。1巻の頃からしえ先輩狙い、というのが明確だった橋山さん。その為に今回はモーションかけまくります。彼女は狂っていた。と、忍殺ナレーションで言いたくなるレベルで策士が策に溺れるにしてももうちょいあるやろ! なアトモスフィア。それが『おやすみシェヘラザード』2巻なのです。
 1巻から2巻を読むのに間が開いた点につきましては、1巻で大体この漫画が出来る事は済んだな、と勝手な見切りをつけたからです。しかし、巻数がそれなりになってきており、なら、もしや俺の知らない謎の何かが内蔵されているというのか!? となり、ついでに自分の感想を読んで気になるという自家薬籠中になってしまい、2巻の購入をカカッとやって読んだ次第。
 で、どうだったかというと、篠房六郎先生のウルテクが炸裂しまくっており、まさかここまでおかしくなるとはっ! と蒙がべかんべかん啓けました。こんなとんちきな、つまり映画について全く面白く語れない、という地点に対してのアプローチがここまで幅広いとはっ! って訳ですよ。
 一応、おさらいしましょう。この漫画は、映画好きで語るのも好きだけど好きなだけでスキル高くなるなら不幸は少ないよね、と言う感じに映画語りが酷いしえ先輩に対して、招かれて聞かされて寝る、の三段活用のあさとさんとの交流を描いた作品です。
 メインは、何故こんなにつまらなくなるんだ……!? というしえ先輩の異次元の映画語り。熱意はある、んだけどそれだけでは覆いきれない何か、というのを毎ターン連打するという、それだけで作る方が苦行過ぎるやつです。
 それの2巻ともなれば、どうなるのか。それがこの2巻になるのです。(某泉論法)
 今回は、2巻収録の三作品についての語り方から、如何にこの漫画が攻め方が〇チ〇〇なのかについて迫っていく。そういうドキュメントとなっているなどとは、努々考えないでください。単なる感想です。

第10夜『魔法少女まどか☆マギカ

 この文字列だけで、うっ! と心臓を押さえてしまう方も多いかと思います。それが、その内容に対してなのか、この漫画で取り上げられるという点に対してなのかは、この際置きましょう。
 この回も、とにかく酷いです。しえ先輩の語り口の問題点がバリバリバルカンパンチレベルでオーリャリャリャリャリャリャリャアア! してくるのです。
 この回でのしえ先輩の語り口の問題点は、感情移入し過ぎと言う点にあります。それは初手からぶっぱなされるのです。つまり、ほむほむの登場によって。
 一回通してまどマギを見た方なら、最初に戻って最初のほむほむを見た瞬間に今までの情報がフラッシュバック、特に叛逆まで行ってたら気持ちのアップダウンが凄すぎて超エモくなるでしょうが、そのエモくなるのを大体の人は抑えて、プレゼンするならすると思います。
 しかし、しえ先輩にそのような機能というか、抑制はついておりません。初手、ほむほむ登場というところを、特に画面とかなしで話しているのに滂沱の涙です。誰もが、気持ちは痛いほどわかるんだけど、それを知らない相手にプレゼンなので抑えろ! となる案件なのです。
 この後、メイン所の登場を語るたびに精神が揺さぶられるしえ先輩、という変な絵が連発されます。あまりにアップダウンが大きいため、聞いてた方がイヌカレーを異端の集団、というある意味ではあってるんだけどな勘違いをするに至ります。イヌカレー的に大丈夫か案件です。頭おかしい。

第12夜『マッドマックス 怒りのデスロード』

 フューリーロード回。今回では、あさとさんを一方的に敵対視、そりゃあ好きなしえ先輩に見初められているくさいから、という先に名前を出した橋山さんが、しえ先輩のフューリーロード語りのガヤとしているという、え? ガヤ? な回です。
 このガヤ、というのが曲者で、フューリーロードってわりと勢いの強い所(婉曲表現)があるじゃないですか。その勢いの強い所を、全力全身全霊で、橋山さんがやってしまうという、ある意味スサマジイ=エイゾウが場面に叩きつけられているのです。
 ここの橋山さんの熱演は熱演で、と重複表現するくらいに熱がこもっています。この映画オタのやばい所をぶっぱなすことで、橋山さんコワイ! そして、しえ先輩もコワイ! 映画好きコワイ! とさせる作戦だからです。そして、そうするにはフューリーロードはうってつけなのだ、とこの話を見ながら内容を思い出すと分かってきます。だって突然「V8! V8!」とか「俺を見ろ!」とか、ぎゅいーん!(火を噴くギターで)とかやりだすんですよ? 危ないでしょ?
 しかも、それがしえ先輩の説明をきっちりフォローする、ということで、知らない人に、マッドマックスおっかねえ……、マッドマックス信用できねえ! と植え付ける、つまりあさとさんが、ひいー! って逃げ出すことになるのです。ここまでは橋山さん計画通り。
 計画通りじゃなかったのは、橋山さんの奇態があまりにかっとび過ぎてて、しえ先輩も状態異常怯えが入ってしまったことです。フューリーロードに出てくる人たち、特に敵対者側は偶に知能指数1になる奇病にでもかかっている人が作ったのかってくらい、優しく言うとトんだ人たちですが、それの真似をやるんだから、つまり狂人の真似事をすれば実際狂人なのです。策士策に溺れるにしてももうちょっといい策あっただろ! 感満載で、両者痛み分けとなり、この回は終了します。頭おかしい。

第13夜『お茶漬けの味』

 回としては特段進んだところのない、閑話といえる回ですが、しえ先輩が話を面白くないよ? という導入で入るという、はいそうでしょうね。案件から、小津安二郎『お茶漬けの味』の話を盛りまくって全く別物にする、展開までは、まあ理解の範疇です。
 その後、盛りが終わって、話もほぼ終わりに入って、で特に何でもない話がしだしてからがこの回の真骨頂。単純に言うとコピー芸という部類の、同じコマを使いまわすやつなんですが、この使いまわし方が本当に独特で、通常のコピー芸というのは再奏的にやって労力を減らすのをし過ぎたせいで芸の域に達するのですが、この漫画の場合は、どうコピーを使うと訳が分からなくなるか、というのを煮詰めてしまった感じで、あまりのその度の強さに話の内容が入ってこない、あれ、これなんか違う事言ってるコマだっけ? になるという、コピーであると気づくがゆえに混乱する、という謎の昇華となっていました。混乱をもたらす、と言う意味ではコピー芸に勝るものは意外とないのかもな、と思うに十分でした。頭おかしい。

ということで

 1巻で大体やることで尽くしただろ、と予断を持っていたのが恥ずかしい位、篠房六郎先生の渾身の作品、それが『おやすみシェヘラザード』なのかもしれません。2巻でもまだこれほどのインパクト出せる、ならもっと追い詰まったら? そして百合三角関係と面白くないという芸の映画語り。相性はいいのか悪いのか、ですが、相性なんて自分でこしらえればいいんだ! という力強いライフハックも見れる。そんな作品です。3巻買ってこな。
 とかなんとか。