感想 湖西晶 『下を向いて歩こう』1巻

下を向いて歩こう 1 (まんがタイムKRコミックス)
下を向いて歩こう 1 (まんがタイムKRコミックス)

 大体の内容「ビーチコーミング! そういうのもあるのか」。とある日、いつものようにビーチコーミングに出かけた硝子さん。そこで、女性水着の上を拾い……からの出会いイベントでシエルさんと出会ってから、日常がちょっと引っ張られていく。それが『下を向いて歩こう』なのです。
 この漫画は、いわゆるきららナイズドされています。女の子が、わりと特殊な何かする。という程度のくくりがきららナイズドというものですが、それは当然、湖西晶先生がきらら4コマ歴が長いからですが、しかし湖西晶先生は、きらら歴が長いといってもその歴には色々な紆余曲折があります。
 『かみさまのいうとおり!』連載から、ぱれっと誌でも連載をして、そして代名詞かみいうが終わってからは新たな代名詞になる『〆切ごはん』連載、からのそれが終わって『三時限目は魔女の家庭科』を、1巻のみで終了からの、この『下を向いて歩こう』。それをしつつ、色々違うところで描いている、喫緊では『意味がわかると怖い4コマ』を。という、きらら4コマ漫画家かくあるべし、という生き残り策で頑張っているのです。
 そんな中で、湖西晶先生の作風、というのが当然変化していったのは理解出来るかと思いますが、その変化した作風で、しかしきららナイズドは出来るのか?
 出来る! 出来るのだ!
 というのが『下を向いて歩こう』の基礎知識となります。(なりません)
 茶番はさておき。
 現在のきらら誌において最古参となる湖西晶先生ですが、その作風を古いと感じることはない辺りが本当に非凡です。ちょっとした普通と違うことで繋がる、女の子たち。その部分をビーチコーミングというものでやることで、きららナイズドの中でもまた異色の一作となっているのです。
 そもそもビーチコーミングというので人が繋がるのか? 女の子がきゃいきゃいやるものなのか? という部分を、出来る! 出来るのだ! とする様からして手つきが異常です。ビーチコーミングするような子、という部分で硝子さんの造形と、そこにワンアクション入れるシエルさんの造形、というのが既に極まっています。
 硝子さんは基本的に一人でビーチコーミングしたり、庭の草花を愛でたりする、わりと可愛い一匹狼な感じですが、そこにノー物怖じのシエルさんが組み合わさることで、荘厳回転360(グロリアスレボリューションスリーシックスオー)し始めるのが、この漫画の基本的な筋です。
 後は、ビーチに行って色々拾ったり、シエルさんがノー物怖じですさみんさんと仲良くなったり、ビーチに行って色々拾ったり、硝子さんが庭の草花を愛でたりと、大きな感動は無いけど、小さなことで感を得る。そういう所作でやっていくのです。
 この漫画のつくりからして、大きな感動、というものは初手から排されている、というとちょっと言い過ぎかもしれませんが、でも、大きくてもわりとレアものを拾った、くらいの話なのです。シエルさんは特にそういう引き運がありますが、それでも超値の張る物、というのは得ません。
 ですが、だからこそなのです。女の子が浜辺などでするちょっとしたことで、色々と展開する。この手つきこそ、湖西晶先生の卓越した手腕が見られると言っていいでしょう。逆に、この内容でよく間が持つな!? という驚きすらあります。
 そして、その特に何もない感じをしつつ、間が持つ、という事実こそ、湖西晶先生がきらら4コマ漫画家である、という事実を突きつけてきます。
 現在のきらら本誌で、それ単体で最長なのは三上小又ゆゆ式』です。その手筋、手管の凄さは、あの漫画に波乱要素が一切なく、そして変な会話重視というかそれ一本で推し進めているところですが、それに近い手腕を、『下を向いて歩こう』はかましてきます。きららロートルとすら言える湖西晶先生の、その弛まぬ練磨、ナイズド寄せには、毎度驚かされるばかりです。
 その上で、やはり女の子が特に大きなことはせず、というきららフォーマットの一端も担っていたのだ、という気づきも出てきます。
 『かみさまのいうとおり!』も、マリアさんの下ネタ反応ネタとか基本のボケ要素がありましたが、それ以外ではそんなにこれと言った話をせず、ぬるぬると女の子が可愛い、というのをやっていた訳で、海藍トリコロ』から荒井チェリー三者三葉』と共にその土台を築いてておいて、その延長線上に、かきふらいけいおん!』があり、三上小又ゆゆ式』があり、という史観も勝手に捏造できるくらい、この手の筋は実はお手の物なのではないか、というのが、今の俺の気づきです。
 成程、ナイズドに寄せるのは、むしろお手製なのか。
 さておき。
 そんな訳で、女の子が海岸を漁る。と要約し過ぎるとワッザ!? な内容ながら、しっかりと面々の交流が描かれ、且つビーチコーミングってちょっと面白いんだな、というのが分かる。それ以上を過度には求めない感じの漫画。それが『下を向いて歩こう』なのです。