感想 鈴木コイチ 『ミツナリズム』1巻

ミツナリズム(1) (モーニングコミックス)
ミツナリズム(1) (モーニングコミックス)

 大体の内容「あなたのあまり知らない石田三成」。世の中にはガチ勢という人達が居ます。何かが好き過ぎて、ガチ以外になれない。そういうある意味ではどん詰まりであり、ある意味では高く羽ばたいた人たち。
 そういう人のうちに、この漫画の作者鈴木コイチ氏はいる。そう考えて差し支えないのが、『ミツナリズム』なのです。
 『ミツナリズム』の内容については軽く済ませましょう。織田信長を討った明智光秀を下し、天下に覇を轟かせる、その前の段階の柴田勝家戦を前にした羽柴秀吉。そのもとにいる若い武士の1人である石田佐吉、のちの石田三成を中心にして、秀吉の治世の時代を描いていく、という漫画となっています。
 では、どうガチ勢か、という話をしていきます。というか、まずこの漫画の開始時期がかなり狙っています。柴田勝家との戦い、つまり賤ケ岳の戦いへと向かっていく、そのちょっと前からスタートするのです。
 秀吉の治世の前の大きな戦闘、というのはここ以外にない点。そこに対する三成の動きが活発に見れる点などが、ここを選んだ理由でしょうが、それに対してグレイト! と判断していい、大変楽しめる構成になっているのです。
 まず、三成の仕事は後方支援。つまり、戦闘の前に動き出す訳で、それを先に見せてくるのはマジ大正解じゃないですか……。と何様かの視線を持ってしまいます。そこで、武断派と文治派、だけではなく縁故とスカウト組、どちらも入れないといけない、という秀吉配下の特殊性、秀吉が戦国にあってもトップクラスの完全成り上がりという点をきっちり織り込みつつ、もうここから武断派と文治派がごねごねしてたのか、とする手管なのです。特に福島正則は三成とよく口喧嘩する、というのをきっちり盛り込んだのも面白い。
 歳の頃も同じくらいだけど、片や縁故、片やスカウト組。それに片や武の将で片や文の将。衝突しない訳がない。というのを、予め織り込んで、今後もこういうことあるよ。という素地を作っている辺りが流石です。仲が悪い訳じゃない、というのがこの初期の頃でしょうけれど、そこがどうもつれるようになるのか、まで織り込んでいる公算が非常に高く感じられます。
 武断派と文治派の争い、というのはこの辺りの歴史物なら当然出てくる案件ですが、それをしょっちゅうやってた、というのを軽いジャブとしていれてくる辺りの手つき、尋常ではないです。いきなり衝突が生まれた訳ではない、というのはある意味では当然なんですが、それをしれっと見せて、ありますからねー。するのは本当にお見事としか言いようがない。まだ、この頃は軽かった、というのを以後の展開で思い起こさせる可能性もはらんでおり、その点についてもやりおる……。案件になるかと思います。今から大期待。
 さておき。
 ガチ勢なところはそこだけにとどまりません。名前は残しているけど、実際どうやったの? な美濃大返しを、きっちりと裏方視点で見せてくれます。
 そこにあるのは、美濃大返しの名のような派手さはないけど、超必要なことの連続。高速移動を実現する為に、先行して村々に馬と糧食を出させる、という地道な作業。
 しかし、それ以外の手では美濃大返しは成らなかった、というのを描いていて、いやホント上手いな?! ってなりました。
 そういう動きのとこの他にも、敗地にあっても生きてりゃなんかできんだろ、と捕まって死ぬまでサバサバしていた佐久間盛政とか、敗北確定の中で酒盛りする柴田勝家など、死生観、戦闘観の部分でも中々面白い。特に佐吉が戦は無駄! というのを戦地でしている所などは文治派の極北と言った風情で、このお堅い感じは若い頃から、ってことで。という鈴木先生のしれっと具合が美味過ぎました。出来ておる喃……。
 さておき。
 わりと関係ない話をしますが、この一つの時代というか、人というのに大変ガチ勢な人というのは、本当に文献にあたるし、なんなら現地に行く。というイメージがあるんですが、鈴木先生もその部類ではなかろうか、と感じております。『孔明のヨメ。』で三国志ガチ勢っぷりを発露しまくりんぐの杜康潤先生と同じタイプスタンドと言えます。でないと、この漫画のスタート位置が出来すぎているんですよ。
 こういうの、大河とかだと幼少期から始めちゃうやつを、ちゃんとまず見せる所、印象に残せる所を見せてから、もっと続けば過去もあるよ。くらいの振る舞いで、きっちりと尺を考えてやれる。この手段のとり方が本当に上手いし、もう若い頃からこうだった、というのの見せ方もきっちりしている。
 その上で、変にウェット&メッシーにしない。佐久間盛政の辺りとか、悲劇性をあげたら出来たけど、そこはちょっと思考が違うことで変なコメディ要素と、それゆえに個性が出る形になっているんですよ。この点はマジ脱帽です。
 三成は、一つの成り上がりの側面という部分があり、つまり隆盛から衰退までを見る事になる位置にあります。その、豊臣が衰退し滅びていく、そこを見ていくという訳ですから、その視点がどういう風にされるのか、というのの試金石を、ここでやっている訳であり、簡単にウェット&メッシーにはならない、と見せてきたことが、今後大きくなると、勝手に思っておきたいです。
 さておき。
 賤ケ岳の戦いを終え、褒賞も終わった所で次は太閤検地! こっからしばらく、朝鮮出兵まで特に戦闘がない、ある意味では凪の時間帯ですが、しかし裏方、文治派としてはこっからが本番。日本の石高と租税を一気に決め直すという大作戦に、三成は如何に向かうのか。というところで2巻を待て。なのです。
 待ちます!
 ということで今回はこの辺りで。