ネタバレ感想 野上武志 『ガールズ&パンツァー リボンの武者』16巻

ガールズ&パンツァー リボンの武者 16 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
ガールズ&パンツァー リボンの武者 16 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 大体の内容「リボンの武者よ、またいつか」。ということで、この漫画としてはこれをしたらそれ以上は原作の枠を超えてしまう地点まで到達した『ガールズ&パンツァー リボンの武者』。ゆえにこの16巻で完結となりました。今までもこれをしたら原作に対しての侵略ではないか? というのをしてきたこの漫画ですが、最終巻もその部分は出しつつ終わります。この終わり、イエスだね! なのがリボ武者16巻なのです。
 色々感慨深く、色々無駄なことを考えさせてくれた昨品なので、感想を、今までのを含めて感想を、とするとまんじりともせずになってしまいまして、大変難儀だったのですが、まずは16巻の感想を書けばいいのよ! となり、なんとかこの感想に着手出来ました。それくらい、この漫画が好きだし、言いたいことも満々とあるのです。
 というどうでもいい話はさておき、16巻で素晴らしいと思った点は、やはりしずか姫と鈴さんがある意味西住みほ越えをしたところでしょう。あれだけ執着を見せつけておいて、最後の土壇場でみほさんに槍を突ける、と見せかけて試合の勝利に向かおう、というムーブを、二人のテケ車は見せます。
 これが如何にでかいことか、というのはこの漫画を16巻分見てきた人にはすぐにわかるでしょう。それだけ、しずか姫と鈴さんは西住みほ概念及び西住みほ本人に執着していました。
 戦車を駆る理由だった、西住みほ。そこに対する屈託や鬱屈などが、今までズン、とのしかかっていたのです。15巻でも、その執着をがっつり見せたんですが、それが16巻のここぞにおいて、重しをはねのけ、一気に伸びあがるのです。
 いやほんとね、あの、西住みほに撃ち取られたい、って言ってたしずか姫が、西住みほを超える、というのを鈴さんに教えられて、そしてそれをどう見せてくれるか、と思ったら、見事に西住みほを謀った訳ですよ。
 家元にすら詭道の子だと断じられたというそのみほさんを、詭道にて! というので、もうあのシーンでこの漫画の名作であるという理由は完全に到達した感じすらあります。初期の段階で兵は詭道なり、と言ったその口が、詭道を超える詭道を!
 でも、それだけで勝てない。それが西住みほ及び大洗の強さだ! というのもきっちり見せてくれるから、更にこの漫画の評価が鰻登ります。人は石垣、人は城。というのが大洗の強さだなあ、と納得させられるのです。原作に対してかなりの侵略をしつつも、その根底ではきっちりと原作に対するリスペクトというかレトロスペクティブというか、とにかくきっちり原作持ちとして遊ばせてもらったけど、ちゃんと基本は返します。というムーブをしてくるから、この漫画が名作だったという理由の一端をそこにあるとみていいかと思います。
 で、ある意味でこの漫画が一番原作に対して侵略した戦車道精神の話、というのをしたいと思ったのですが、まだ醸成していないというか、自分の過去の発言をちゃんと見てから書かないといかんな、というので、思考が停滞しています。色々考え方が変わったけど、そこも含めてきっちりと残しておきたい。そういう欲が出ているのです。
 それでも今んとこの考えを簡単に言うと、西住みほぉ! って感じです。お前が一番それ言っちゃいけなくねえか!? でもある意味、西住みほの戦車道感この漫画の基本だったんだな、というのもまた感じ感じ。
 さておき。
 16巻の最終到着点もまた、大変よろしくございました。世界に行くんじゃないか、という予測も前にしたい記憶がありますが、そこに対するアプローチもありつつ、でも人を育てる、仲間を育てるという西住みほの背中をまた追いかける形に落着したのが大変ようございました。ある意味、西住みほの背中をただ追っていただけから、そこを飛び越したが故に出来る、そういうムーブ。それも自分たちの背中を追ってきた人たちと、というので、世界に行くよりこの漫画らしい、と思わされるくらいには、この漫画も積み重ねてきたんだなあ、という感想が、最後にふっと出ました。
 で、鈴さんの最後の一言が、更にぐっとくるわけですよ。世界に行っても、後進を育てるのでも、どのエンドであっても使える言葉だったかと思いますが、この漫画を締めるにはこれ以上の言葉はない。そういう意味で、この漫画はしずか姫と鈴さんの話だったのだ、という当然だけど忘れそうなとこを、しかしちゃんと最後に提示してくれた訳ですよ。なんだかとっても、ありがてぇじゃねえか……。と、あらゐけいいち『日常』の台詞が、稲田徹声で出てくることを、ご容赦いただきたい。本当にありがたかったのです……。
 ということで、16巻で完結したリボ武者。やっぱり大鍋戦が原作に対してやり過ぎていて、そこの印象が強いですが、最後に向けてきっちり積み立てていった部分も大変楽しく、総じて素晴らしいスピンオフだった、というのが最終的な感想です。
 本当に、こんないい物を、ありがとうございました。
 そう書いて、この項を閉じたいと思います。