混濁感想 江島絵里 『対ありでした。~お嬢様は格闘ゲームなんてしない~』3巻

対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~ 3 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~ 3 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 大体の内容「大会だ!」。大会。それは大会! ということで格ゲーのお祭り大会EXjpで戦う白百合さまこと美緒さん達の雄姿、よりも目立つ有名プレイヤーの戦い! という、わりと大会らしい内容になっているのが、『対ありでした。~お嬢様は格闘ゲームなんてしない~』(以下対あり)3巻なのです。
 対ありの面白い所はどこか、というとやはり格ゲーへのガチな温度なんですが、3巻はそれが十重二十重と折り重なって、それでいつつ細かい試合の機微などもあり、江島絵里の漫画力が試され認められるという状態になっている巻となっています。
 大会編ですが、よくある大会のそれなんだけど、門外漢が思い描く大会とは趣が違うのが、この漫画の大会です。ダブルエリミテーション、というのはゲームの大会、特に格ゲーの大会では現在では常識レベルの仕組みですが、それを分からない人もいらっしゃるでしょう。
 普通のトーナメントと何が違うのか。
 作中でも言及されていますが、端的に言うと一回負けただけでは終わらない、という仕組みがあるところです。
 勝ち続ければウィナーズ、一回負けてもルーザーズとなり、どちらもトーナメントを勝ち上がれば、最終的にウィナーズとルーザーズが折り重なる第二ステージの切符が渡る、というトーナメントの仕組みです。
 これがどのような効果があるのか、というとそれだけ運否天賦を排せるということです。実際問題、実力があっても100%勝てるとは限らない。人間のすることですから、絶対はない。そして単発の試合で決めるなら、無茶苦茶で勝てる場合だってある。
 しかし、調子はしり上がりに上がるかもですし、無茶で勝つにしても1回勝てばいい、というのでは、それに対応されると全く効果がなくなる。そういう類の事故を少なくする為に、ウィナーズとルーザーズに分ける施策となるのです。
 ルーザーズ、つまり一回負けたと言っても、その後ルーザーズトーナメントを勝ち続ければ、それは十分強いという事なのは明確でしょう。
 そういうのを落とさないようにする。そうやってトーナメントと言うある種一発勝負に対する保険としたのがダブルエリミテーションということになります。
 閑話休題
 そんな感じで大会としてはガチの、リアル寄りの対戦大会なEXjpですが、癖の強いやつが集まってきていて、綾さんや美緒さんも目じゃないくらいキャラ立っているので、大会編はそれゆえに群雄劇の様相を呈し始めました。
 特に3巻登場の強面プロゲーマーgekido(ゲキド)と、その後輩禍腐餌悪霊(カフェオレ)の対決は互いに譲れない試合となるように因縁が高速で積み立てられ、その対決がこの巻の超強いやつらの動き、としてドット単位の見切りでかわし続ける攻防に発展。ある意味無茶苦茶地味なのに、格ゲーマーには垂涎のタイムとなっていました。ドット単位の見切り、概念は分かっていても実際されるとなるとテンションが爆釣しますよ。それくらい凄いのなんです。
 また、そのゲキドをネット対戦とはいえ一戦とった子とかもいて、それが最終的に3巻では美緒さんにばーかって言われてしまって因縁が生まれたりします。あれは美緒さんと戦うフラグかねえ……。
 ああ、実況のフランベルジュが素晴らしくうざいキャラで押していたりのが、大会その場所だからこその空気というのに一助してて良いと思いました。
 この実況、というのが、現行の格ゲー女子物、対ありと対を為す、二凶の一角、大@nani:吉緒もこもこ丸まさお『ゲーミングお嬢様』(以下ゲー嬢)とは趣が違うのが、この二者の在り方、生まれ方からくるものだと分かると、面白さが倍増してきます。
 ゲー嬢の実況は、今どきの実況とはちょっと違う。むしろプロレスとかの実況です。ある意味で正しい実況であり、実況者の存在というのはその発する言葉で出す。その存在は前に出ないというものです。言ってしまえばクラシカル。
 対して対ありの方は、実況者のキャラを全面に推し出す、という、こいつの実況だから! という次元のものです。実況だけでその試合を見る。そういう、今の時代の実況者として、ウザ系実況者フランベルジュがあるのです。
 その上で、更に現代的なのが、コメントが流れる、という所謂ニコニコナイズドであるところです。
 実況に動画でコメントする文化、というのが生まれて久しいですが、ゲー嬢はこの方式を全くとらない。動画ネタ、というのもそうそうない漫画だったりします。
 対して、対ありはそこがきっちりとやっている。それも適当な言葉を流すのではなく、こういうのあるよな、と感得出来るレベルであるあるの言葉が並ぶのです。
 特にフランベルジュがスポンサーの物出したとことか、カップ麺食うとこについた字幕は、中々に訓練されたやつで、お美事! と言えるいいツッコミがあったりします。
 この辺が、ゲー嬢と対ありとの明確な差異であります。ここが何故生まれるか、というのはやはり世代の違い、というのがデカいでしょう。年齢的な差ではなく格ゲーマーとしての年季の差、と言いましょうか。
 江島先生、ゲーセンで対戦したことがない、という話がどこかでされた記憶があるんですが、つまり熱帯ネイティブ、ということであり、それなら現代的実況文化と親和性が高くなる時期なのは論を俟ちません。
 対して、大先生は、隆子様にゲーセンの空気というのを浴びに行かせる回や、温泉旅館のレトロゲーの話など、随所に古いタイプのゲーマー、格ゲーマーのそれを出しています。なれば現在的実況文化とは反りが合わない可能性は十分にある。
 そこが、ゲー嬢と対ありの差異として立ち上がってくるのです。
 という、ゲー嬢と対ありの差の話を始めてしまっていましたが、ここで感想に戻ります。
 さておき。
 先述のゲキドとカフェオレの一戦、群雄劇の一幕な訳ですが、しかしそれでもこの漫画は綾さんと美緒さんの話です。
 そして、このゲキド対カフェオレ戦、勝った方が綾さんと、負けた方が美緒さんと対戦、という流れに持って行っているのだから、その辺抜かりなさが凄いです。
 というか、こんな強い相手をぶち込んで大丈夫なんですか、江島先生! ってなる激闘しているんですよ。油断ならねえ! 江島先生油断ならねえ! こんな盛り上がるとこをもう一段盛ってくる差配が油断ならねえ!
 さておき。
 そういうハイのハイレベルの話もありますが、玉てゃ先輩の大会初戦も、素晴らしくいい出来なのです。
 玉てゃ先輩、大会初戦で荒らしなプレイヤーと遭遇し、ぐぬっ! となりますが、無敵がないなら一生起き攻めを続ける、という、中四股ヒット確認100回成功をした苔の一念力を発揮します。流石に実績のある苔の一念はすげえな……ってなりますよ。似た受け身を見切りきって、とか本当に頭が下がります。地味に難しいのを、ようやる!
 その後の、荒らしに対する気持ちの話も素晴らしい物でした。落鱗ぼんろぼんろですよ。そうだね、俺も荒らそう! ってなりました。(受け取るとこが違う)
 さておき。
 超強敵が綾さんと美緒さんの前に立ちふさがる、んだけど、待って。まだこの大会での綾さんの動きと美緒さんの動き見てなくない!? というので、綾さんがどうし上がっているのか。美緒さんがどう普通に強いのか。そこが気になるのでちょっと連載見てくる! と書いてこの項を閉じたいと思います。