ネタバレ感想 高遠るい 『はぐれアイドル地獄変』13巻

はぐれアイドル地獄変 13
はぐれアイドル地獄変 13

 大体の内容『戦乙女闘宴、衝撃の結末!』。なんですが、その衝撃度を漫画の力が更に倍増しさせていたので、完全にアヤ・エイジアの「ダイレクトに脳を揺らすのよ」の漫画版を食らった感じなのが、『はぐれアイドル地獄変』13巻の顛末なのです。
 この場合の漫画の力というのは、試合の流れを他のキャラが話す、というものです。
 通常のドキュメンタリーだと、色んな人の話を総合して台詞を取ってから方向性を決める、みたいな形になっていくものでしょう。あまりに話の枠に収まらない話をされても困るからです。
 しかし、これは漫画です。そういう枠を持って語らせるのではなく、語ることで枠が出来る、という形に持って行っているのです。一つの作者のシコウから出されるが故の、総合エンターテインメント。
 それが、この13巻のグバゼVS海空戦になります。
 このドキュメンタリー調に見えるところは、実際ドキュメンタリーという枠を超えている感があります。話が展開を補強し、その補強から更に逸脱して、また補強する。そういうごちゃごちゃした関係に、試合内容と語られる言葉との相関があります。
 この形式でもっとも有名なのは、当然暴獣板垣恵介の『バキ』の最強死刑囚編における花山VSスペック、警察署戦でしょう。ドキュメンタリーというよりモノローグとして、花山とスペックの戦いを、冷静に伝えていくというあのスタイルが、今回の後半までのグバゼVS海空戦と軌を一にします。というかパクリって言っていいと思いますが、そういうパクリ嫌いじゃないぜ。
 このスタイルのいい点は、先にも行ったように展開を補強する意味合いがあります。動きの意味を、後付けで、見ていた言えるものがあるというのを使って、そういうことか、と即座に認識させることができます。*1
 そういう術式で、本家でも雑多な動きの花山VSスペック戦をまとめていた訳ですが、この漫画は更にその上を行くという、後追い、だからこそだろうがっ、とコミックマスターJさんみたくやってくるのです。
 その後追いだから、出来んだろお! とばかりにこの漫画がやったのは、視点者を切り替えていく、というものです。ある意味ではこれもドキュメンタリータッチですが、スポットが当たる度にあまりに美味しい言葉しか言わない面々も相まって、試合展開の理解が桁違いに捗ります。その上、そこに対する解説が人によって違ったり、そも感想にブレがあるがゆえに多面的に内容を見る事が出来て、それゆえに出来る誘導が決まりに決まってくるのです。
 これは当然補強の意味もあるんですが、逆に、例えばグバゼさんの投げが必ず決まる、という話から逃れる! という展開をすることで裏切ってくることもあります。つまり、誘導して、裏切る、という形ももってくるのです。
 こうされるともう、アヤ・エイジア理論で言うところの脳が揺れている状態になる読者は多いと思います。高密度の素早い展開の中でそれをきっちりと理解させられつつ、偶に裏切られる。ダイレクトに脳を揺らすは、こうも堪らんものなのか、というレベルで酩酊状態にされてしまうのです。
 この形式が始まった瞬間に「(絶対面白いって)言うから止めろお!」と透明探偵アキラ声になってしまったのもしょうがないと思っていただきたい。
 前例は他にもあるだろうし、完全なネタ元ではないかもにしても、面白いやり方として『バキ』読者の脳内に異常に残っているこの仕組みを、こうも更なる改良をかませて突きつけられると、訳が分からないくらい面白く感じてしまうから困ります。
 もう、この段階に入った段階で、この漫画ここで終わってもいいんじゃねえかくらいの追い風が吹いていたんですが、そこだけでを終わらないから本当にこいつ頭がおかしいぜ。という言い方してしまうものとなっています。
 この多彩な合いの手の中に、更にグバゼさんのモノローグや海空さんのモノローグが入り、試合への没入感が倍増します。敢えて、終盤までその手を使わなかったのは、それだけそこに至るまで周りの声だけで面白いからもなんですが、終盤となるとそうも言っていられない。真の意味で総力戦ですし、周りではもう分からない領域の話になってくる。
 展開の外堀を埋めたからこそ、後は内側の声を出していくしかない、というラインへと到達したのです。
 そしてこのモノローグは最終的にこれはどちらが言っているんだ、という融合を魅せるに至ります。どちらか、というのはもしかしたら確実なのはあるかもなんですが、私はそこは完全に二者の心の声が混ざっている、と認識しました。それくらい、どちらなのか、という境界が溶けたところに到達したのです。
 もう、俺は何を読まされているんだ、くらいの感覚でしたよ。そこまで行くのかと。
 それでいて、この総力戦と言える試合の最後の〆というのもグゼバさんらしく、且つ海空さんらしい結末となって、これはこれで、ここまでやったならそれは全部受け入れられるな、という地点となっていました。とても自然に受け入れられる! すっげえ!すっげえすっげえ! です。
 さておき。
 ここまでしっかりと格闘話として書かれてきたこの漫画ですが、基本がエロコメであることを忘れてはいけません。戒め。
 そして、エロコメが基礎にあるので、今回のグバゼVS海空はビキニ対決になりました。
 エロには理由が必要です。これは『つぐもも』の浜かづ屋こと、浜田よしかづ先生の言葉ですが、このビキニ対決になるのにもちゃんとした理由が存在します。その理由の存在具合が、成程、エロって理由がちゃんとあると捗るんだな! という理解を得るに至ります。
 グバゼさんのある意味フェアプレイに対する意識が、そうさせたのですが、どっちみちビキニにしたかったんだろうなあ、基本エロコメだもんなこの漫画。という理解も同時に得るんですが、それはさておき。
 こうやって、ちゃんとエロ要素を出せるのなら、今回のような格闘大会ネタからも、案外するっとエロコメに戻れるかもな、などと、その気になっていた俺の姿はお笑いだったぜ。
 ということで、海空さん、試合のあったすぐ後の日程で腹上餅つきしていました。いきなりエロ営業! するっと戻るかと思ってたけど流石に一呼吸くらい置けよ! 最後のコマでの俺の困惑顔見せてやりてえぜ!
 ということで、次の展開が全く読めないまま、戦乙女闘宴が終わったのが、『はぐれアイドル地獄変』13巻だったのです。ホント次からどうするんだこの漫画。

*1:これの更にもう一深度があるのが、同じく『バキ』の大擂台賽編の、所謂「ベストコンディションの姿である。」です。漫画として地点地点だけを描いていきつつ、そこの流れを雄弁なナレーションで補強するという、未だにこの完成度でやっている人を見たことがない、板垣御大ですらその後出せてないレベルのものです。いつか高遠るい先生にもその「ベストコンディションの姿である。」領域に行ってほしいです。