ネタバレ?感想 池上遼一:稲垣理一郎『トリリオンゲーム』1から3巻まで

トリリオンゲーム(1) (ビッグコミックス)
トリリオンゲーム(1) (ビッグコミックス)

 大体の内容『つかむぜ、1兆ドル!』。1兆ドルあれば買えない物はない。つまり、それだけ稼げばいつでも世界を手に入れられる! という夢所謂ドリームに対して本気で攻めていく漫画。それが『トリリオンゲーム』なのです。
 いやいや、1兆ドルって何を夢を見てるんだよ。ヘタな国家予算すら越えるレベルですよ? というツッコミがいれられそうなネタぶりですが、そこを無茶なことを言っている、としないのがこの漫画の初手の御業。
 というのも、この漫画のメインパーソナリティーのハル及びガクが、いきなり世界長者番付に載っているというニュースを横目に展開からスタートするのです。正確には、ガクのどこかに海の見える家を買って、つつましく、という安牌な夢の話から、いきなりお台場の海の見える高層ビルの一角に現実の視点として移る。という対比をやってきます。こんなデカい夢は持ってなかったのに! というところから、スタートとなる訳です。
 このスタートの巧みさからして、流石の稲垣理一郎せんせです。開幕10ページも満たないとこで、この漫画の立ち位置、そしてハルとガクどこへ向かうのか、というのをささっとでありつつ、印象的に魅せつけてきます。
 その上で、話はハルとガクの知り合った経緯、そして会社としてトリリオンゲームを立ち上げていく話へと、この漫画はなだれ込んでいきます。
 とにかく、一発目に世界長者番付に名が載った。そして超セレブ生活が幕を開けそう、というのをまず鼻先ニンジンにして、これがどうしてこうなるのか、というのを今後見せていきますからね! というのを1話で打診してくるのです。
 私は常々、『コミックマスターJ』の名言、「面白い漫画はねえ、一話目で決まるのよっ」が好きだといっています。私の好きな言葉です。と構文したいくらい好きです。それは幾分に真実があるからです。1話目が面白い漫画は、基本外れない。それがこの『トリリオンゲーム』でも適用できます。
 上記の通り、この漫画の行く地点をしっかり見せつつ、ハルとガクの出会いと、トリリオンゲーム設立へ向かっていく方向性が、行く地点へ向かい始める話がされているからです。もうこの時点で名作とほざいても文句はないと思います。それくらいレベルの高い1話目なのです。
 これはぐぐる様で『トリリオンゲーム』と検索すれば試し読みページを見つけるのが可能なので、興味のある方はカカッと見て見る事をお勧めします。マジでレベル高い1話ってのはこういうのだ、というお手本なのです。
 さておき。
 話としてもきっちり魅せる1話ですが、キャラクター面についてもきっちり魅せてもいます。1話目ではちゃんと出るキャラクターを、特に今後に関係する面々にしっかり絞ってその人となりを魅せてきます。
 その中でも、メインの一人であるハルのキャラ造形が大変しっかりしています。
 ハルは1話開幕から、1兆ドルあれば何でも買える! それを手にする! という夢想の如きことを言っていますが、それをわがまま、という単語に落とし込んできます。この世のすべてを手に入れるという夢の為にわがままを通す、というのです。
 この段階で、若干のヤバさを感じるかたもいらっしゃるでしょうが、それは的中しています。このハルと言う男、所謂悪いことに対するブレーキがありません。悪いことが分からないのではなく、悪いと分かっているのにやる、と言うタイプなのです。完全にイビルのタイプです。
 ですが、そこに善性がないかというと、そうでもない。悪いことに対して罪悪感がないですが、だからといって悪として成り上がろうというのではない。表向きは、ですが、ちゃんと会社を起てていこうとしていますし、この漫画で最初に印象付けられるガクとの出会いの話でも、暴力ふるい放題だったとはいえ、ガクが危なかったら助けた、というムーブでもあります。悪に対するブレーキがないだけで、基本的には善人なのです。
 この非常にいい色合いが一番でているのは、ハッカー大会の決勝戦。ここで、ハルの悪辣さと真剣さがきっちりと出てきます。
 2巻で主に語られるハッカー大会決勝で、ハルは悪い知略をがっつり使います。初手はアルミの大麻で電波をかく乱する、というこすい手、なんですが、そこは実はもう一段知略を、それも悪い知略をかましているのです。この二段構えを見た時はやられた! って感じでした。それらしい情報のネタ振りもしているのに、大きな行動の前に気づかない、という仕手です。上策。でも、すごい悪い手です。誰でも一度は考えつくルートであり、実際前例もあり、というのが色々あってやらないやつなんです。
 でも、やる。それも最も悪辣に働くタイミングで。そこの悪い手を悪いから排除しない、というか突けるなら突く。それも最大限に突ける所で。ハルらしさの出た見事な策略でした。
 もうこの頃になると、読んでるこっちとしてはこいつらがどう金を掴んでいくのか、というのが気になり過ぎて新刊はよ! な状態なのです。新刊出る7月はよ! 時間吹き飛ばして結果だけ残って良いから早よ! まであります。
 稲垣理一郎せんせのストーリーテーリングの魔性にハマってしまっているのです。
 さておき。
 ストーリー面の、つまり稲垣理一郎せんせ方面の良さはある程度書いたと思うので、作画面の方、つまり池上遼一先生方面の話をします。
 皆様に置かれましては、池上遼一先生というとどういうイメージでしょうか。
 私は、イケメンがいい顔して真正面向いているという、かなり偏ったイメージを今まで持っていました。
 しかし、その印象はこの漫画で一変しました。かっこいい顔だけではなく、無様だったりおかしかったりする表情を、つけているのです。
 一応、イケメン担当のハルは変に崩れた顔は少ないんですが、その代わりにガクが変顔担当、あるいは色んな表情担当で、緊張したり焦ったり泣いたり決意を決めたりと、色々な表情を魅せます。
 正直、池上遼一先生の手から出た、というのが信じられないくらい、変顔が多い。ある意味漫画的という表情を、ガクを中心にしている。池上遼一先生にそんな引き出しがあったなんて! と不遜にも程がある感想すら出てきます。
 とはいえ、そういう変顔だけがいい訳ではなく、ちゃんと池上遼一先生らしい、決め顔や、色んな感情のあわいのある表情もあります。
 ハルが色々あって金の為に手持ちの高級腕時計を売っていて、というところでハルの魅せる顔は、決め顔ってとこじゃないけど、非常に色んな感情が乗っている。だからこそガクもぐっとくるのも分かる、いい表情でした。
 そういう風に、池上遼一先生のネームバリューとなる部分もゆるがせではないのです。というか、変顔があるから、余計にそういう表情にぐっとくるところもあります。
 慣用句に古い革袋に新しい酒を入れる、というのがありますが、これは新しい酒を入れたら革袋まで活性化された、というレベルのものです。まさか、そういうものがこの世にあるとは、という驚愕も、『トリリオンゲーム』の良さの一つとしてあげられると思います。
 さておき。
 この先の出来事は何が起きるか分からないけど、世界的金持ちになるのは確定している。というよくよく考えると大変無茶な状態で、現在スマホゲーム制作編に突入しています。そこから、どうやって世界的金持ちになっていくのか。というかもう新刊早くしてくれ! それか向こう3年くらい先の情報が未来から到来しろ!
 とかなんとか言ってしまうくらい、『トリリオンゲーム』。私の好きな漫画です。