感想 日当貼 『OTETTE』1、2巻


オデット ODETTE(1) (ポラリスCOMICS)

オデット ODETTE(2) (ポラリスCOMICS)
(リンクは物理書籍のページ)

 大体の内容「猫なあの人と、デートする」。彼女たる多恵さん(OL)と、彼氏たる猫氏(名前は明かされていない)のデートでの一幕二幕。それが『ODETTO』の概要なのです。
 先に書いた短い大体の内容で本当で大体の内容なこの漫画ですが、それでつまらないかと言えばさにあらず。世の中にはおっさんが心の中でぼやきながら飯を食らうだけで楽しいという漫画がドラマにすらなって楽しまれるように、ただデートしているだけでも全然漫画として成立するというのを見せつけてきてくれるのが、この『ODETTE』なんですよ。
 そこには大きな波乱もないし、ハチャメチャにドキドキすることもない。大きな動きはないのです。でも、それだからこそ、ちょっとした会話でほんわりするのとか、浴衣の袂を持たれてドキッとするとか、ほんの些細なことが、でも大変暖かい事なんだよなあ。というのを感じさせてくれて、普段は別に恋人とかなくてもいいですという人にも、ああ、恋人って、恋愛っていいなあ。そういう風に思わせる力がある漫画なのです。ファンタジーな激しいドギマギより、こういうゆったりとした、でも大事な時間っていうのがあるんだなあ、というのを感じさせてくれる方が、だからこそ余計にダメージがでかいんですよね。好きで、一緒に居れて、話せて、嬉しくて。そういう物が詰め込まれたのが、この『ODETTE』なんですよ。
 この漫画がおデート中心の構成であるわけですが、バリエーション多くないんじゃないか、と思うでしょ? 実際その通りではあり、特別な場所に行くのは数が限られてくる、映画とか違うパターンが難しい、んですがだからこそ普段のちょっとした逢瀬が山椒の如くの効き具合。仕事終わってデートして帰る。そのちょっとした時間の良さですよ。ちょっと一緒に飲んでから帰るだけなのに、何このデート感。そしてお邪魔虫も居るからまた二人だけの時間ってのも出来る訳で、そこでの酔っ払いな二人がただ帰っていくだけなのに、なんという優しい空気が! というのでもう。この空気が全編にわたって横溢しているのが『ODETTE』なんですよ。
 さておき。
 登場人物の話をしますか。彼女である多恵さんは小さくて可愛らしい小動物タイプと言ってしまえば楽なのでいいんですが、彼氏である猫氏が難しい。それは基本的に喋らないこととか、LINEみたいなのでもスタンプで返すという徹底ぶりだとかそういう問題ではなく、猫氏が、猫なことが問題なのです。そう、猫。それも人型の猫。人の頭が猫になってるタイプの猫人なんです。これが相当難しい。なんで猫なのか、というのが全く分からないし、他にそういう人がいるようにも見えない。猫は猫でちゃんと猫である。猫氏だけが、猫人。これはいかなることなのか、と思いますが、でも特に回答されるタイプのものでもないし、そう言う漫画じゃねーからこれ! というのも分かるのでまあ、猫だと顔立ちが優美ですヨネ。と言っておきましょう。でも、猫だから普通の人より顔が分かりにくいのに、多恵さんは的確に猫氏の表情を理解してて、ああ、こういうのもいいよなあ、ってなります。他の人は分からないでも私は分かる、ってとても親密感がありますヨネ。そういうトコもいいのが『ODETTE』なんですよ。
 好きな回の話をすると、多恵さんが大人の財力じゃフーハハハハ! ってなった2巻収録のお祭りデート回が一番好きです。色々対照的な多恵さんと猫氏のやりとりが一々くすっとくる味わい。型抜きの枠をつい口に運んじゃってしまう多恵さんとか、綿あめが顔について苦慮する猫氏とか、りんごあめをどうするかで悩んでいる多恵さんとその時には既にはぐれてしまってる猫氏とか、それで猫氏探すも見つからない! と思ったら袂を多恵さんが、のとことか、とにかく細かいんですけど総じて良いんですよ。この漫画のおかしみと優しさが双方ちゃんと出切った回だったかと。とはいえ他の回も総じていいのが『ODETTE』なんですよ。
 最後にまとめ。デートするだけの漫画、というだけなのに、それが大変多岐にわたり、でも軸は揺らがない。だから堪らなく魅力的。それが『ODETTE』なんですよ。
 とかなんとか。