感想 ふかさくえみ 『鬼桐さんの洗濯』2巻

鬼桐さんの洗濯 2 (バンブー・コミックス)
鬼桐さんの洗濯【カラーページ増量版】 (2) (バンブーコミックス)

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 大体の内容「ふかさく先生が洗濯ガチ勢になっていく……」。鬼桐さんと茶子さん、そして妖物さんたちとの交流を描きつつ、洗濯については完全にガチ勢、毛なら毛用、つまりシャンプーだ! とかやりだしている段階で完全にガチ勢(重要なので二度言う)な漫画なのが、『鬼桐さんの洗濯』なのです。
 基本的には妖物、それも洋の東西を軽くまたいで、出せるなら色々出そう。という感じのこの漫画ですので、季節物もきっちりと。それの代表格はやはり年末の魔物じゃねえ風物詩、サンタクロース。その服の洗濯に、という話があったりします。そこでは、トナカイさんが人間の姿でこの時期はうろついているのか、というのがあったり、サンタ装束の洗濯出しが当番制だったりとかで、そういう部分を見るのが大変楽しい回でした。
 しかし、季節物では梅雨時期の話、つまり傘の回が素晴らしい。番傘のバンさん(当然妖怪)と魔王君との、そしてその間に入ってきた厄介物のビニール傘の三角関係! どっちらも性別的には雄っぽいですが! なのです。ここの良さというのは魔王君がバンさんを大切にしているからこその三角関係だというところです。同じのを使い続けるより、適宜交換した方が持ちが格段に違う、というあれです。
 それでも浮気性! となりかけますが、でも、幼少期、まだ番傘なんて持てない頃から使おうと必死になっていた魔王君というのを見せられると、それだけの間柄のバンさんを長く使いたい、という魔王君の純粋な想いにいい話じゃねえか! ってなってしまいます。まあ、バンさんは一回全とっかえされた過去がある、というので妖怪、特に器物怪の心とはどこにあるんだろう、という深淵な問いが投げかけられたりして混乱するんですが。
 で、ビニール傘の方も相当重いタイプ。雑に扱われ捨てられ、というので恨み骨髄、ねえけど、で妖怪になってしまっているのを、それなら使ってやらあ、という魔王君なのです。男気があります。でも、相手の気持ちに頓着が足りてないので、まだまだです。とはいえ、誰かが使ってやらないと祟りしそうでもあったので、その辺を考えているのかも。とりあえずそのままだとこう着状態なので、第三の手を打って、でもそれもまたヘイトを溜める形になったのは、まだ青いということなのでしょうか。こういう気遣いが出来るから、案外学校とか密かにモテてそうですね、魔王君。
 さておき。
 この漫画はクリーニング店の話なので、当然洗い物、特に汚れ物に対する洗浄の話題が出てきますが、それがどんどんガチ度を上げていきます。もとよりしっかり下地を持っている漫画ですが、なんか方向性が難物に向かい始めており、特に先述の毛物に対する、なら毛用の物、つまりシャンプーで洗えばいいじゃない! という話が出てきた時の、それやな! 感は異常でした。ケイトじゃねえ毛糸や羽毛、毛皮は確かに毛。それなら毛を洗う専門のシャンプーやリンスを使うのは間違っていない! とエウレカです。シャンプーにある毛髪の油脂を補う効果が、他の毛物でも大活躍! ウハウハだな! ザブーンだぜ! というテンションではないですよ勿論。こっちが知ってそうか! ってなった時のテンションです。
 このガチ洗濯勢具合は、ふかさく先生がある驚異の資格を取る段階までになっており、それを巻末あとがきで知ったこっちはもう、ガチ勢じゃねえか! という声を大にして言わざるを得ませんでした。4コマ漫画を読みながら洗濯について学べる漫画、という言葉が事実である形になってまいりましたよ。描き下ろしのところでも1ページ使って汚れ落としの薬品について多めの種類を軽く説明する、という漫画じゃない! というのもやってきます。後、巻末にある参考文献が、その道の人から見てもガチらしく、帯にその旨が記されており、つまり本当にどこまでガチ勢なんでしょうか。どこに行っちゃうんでしょうか。
 さておき。
 この漫画は人と妖物との触れ合いというのがもう一側面ですが、今回も色々とそれでいい場面が多かったです。煙々羅の人とそのパートナーの人の話が、1話だけの展開ってちょっと勿体なくね!? というくらいいい話だったりします。煙々羅は煙がないと消えてしまう、というのでそのパートナーの人がたばこを吸う! ってやったら肺を悪くしたりとか、もう胸熱です。いいやつやん! そして煙がないと消えてしまう、けど実は水蒸気でも問題ないと分かってから、ならもう縛る必要はないですね、っていうパートナーの人。お前は! ですが、煙々羅の一緒にいる! というのが通って、一件落着。素直に人と妖怪の縁が繋がれつつ、要所で洗濯の話もあって、大変いい話でした。パートナーの人の人間が出来すぎていて、でもだから離れた方がって言っちゃうのが良かったですね。
 さておき。
 この漫画の人と妖物との触れ合い、でいうと鬼桐さんとトキエさんの話は避けては通れません。1巻でもたった1カットでナイスエモーショナルだった鬼桐さんとトキエさんの話は、今回もわりとワイドに語られます。
 一つは、トキエさんが天涯孤独になった時に、鬼桐さんと出会って、それからトキエさんが死ぬまで鬼桐さんとの仲を維持したお話。いつの間にか育てていたのが育てられていたみたいな恰好になっているのが胸熱です。そもそもの出会いが、関東大震災の頃に、というので鬼桐さんがマジで年取ってないんだな、というのが分かりつつも、それだけ長く生きていても意外と抜けているし、そこをトキエさんにからかわれていたんだな、と。そしてトキエさんが最後に残した言葉の余韻が良過ぎてもう駄目。エピソードが重ねられたらその株がガン上がりするだろう、と思っていたんですが、それがきっちり出されるとやっぱり胸熱です。いい話だなー。
 もう一つは商売敵のミミカさんが、過去にトキエさんと何やら親し気にしていたことが発覚する場面。ミミカさん(天使。用語ではなく事実上の)とトキエさん一体何が2人の間に? それを鬼桐さんは知らないっぽいので、何やら密約があった模様です。それが、ミミカさんがクリーニング店をしているのと、ついでに商売敵なのと何か関係が? そういう謎を密かに流してくるの侮れません。というかトキエさん株がどんどん上昇していくんですけど、いつか霊として現れたりとかするんでしょうか? 幽霊はまだ出てないので、いないか、まだなだけなのかですが、どちらにしても出てきたら一波乱ありそうです。
 そんな感じで洗濯ガチ勢しつつも人情話が綺麗に決まる。3巻以降も期待したい、あるいはアニメ化すら期待したい。ちょっと地味かな? という感じの妄想をしてしまう、『鬼桐さんの洗濯』なのでした。