感想 木々津克久 『フランケン・ふらん Farntic』1巻

フランケン・ふらん Frantic 1 (チャンピオンREDコミックス)
フランケン・ふらん Frantic 1 (チャンピオンREDコミックス)

 大体の内容「相変わらずの木々津節、短編を添えて」。VS開田さんの好評を持って、あのふらんが帰ってきた! グッドエンドでもトゥルーエンドでもビターエンドでもバットエンドでも、その味わいには言い方はありましょうが、しかしここはひとつ木々津エンドという言葉を持って、その内容についての言説に終止符を打ちたい。という訳の分からないムーブをファンに誘発させるのが、木々津克久という漫画家なのであり、『フランケン・ふらん Frantic』という漫画なのです。
 『フランケン・ふらん Frantic』という漫画は、完全に『フランケン・ふらん』の続編です。しかし再登板であるというのに「皆さん、覚えておいででしょうから特に出てくる人物、特にふらんについては語りませんよ。いつも通りだとは見せますけどね」という所作をぶっぱしてきます。確かに、1話目の流れでふらんというのがどういうモノであるか、というのはしっかりと語られます。ゆえのそれで十分だろ、という所作です。ですが、いくら何でももうちょっと新規ユーザーに配慮があっても、とも思いました。しかし、よくよく考えてみると我々ファン読者側が知っていることは、1話目以上のことはほぼない、という事実にぶち当たります。都合、『フランケン・ふらん Frantic』は3話しかないのですが、その3話の情報の総合で、ほぼ100%『フランケン・ふらん』という漫画はこういうのだ、と提示しきっているのです。ふらんが超絶の医療テクと底抜けのお人よし(婉曲表現)なのと、斑木博士があちこちで何かしているのくらい覚えておけば、ほぼ問題ないのです。後、沖田とかヴェロニカとかガブリールとかいたなあ、くらいしか予備知識は必要ない。そういう意味では、『フランケン・ふらん』が如何にタイトな出来だったのか、というのを感じさせられます。
 さておき
 この漫画から『フランケン・ふらん』に侵入した人は、そのオチの得も言われぬ味わいに困惑したかもしれません。木々津漫画侵入がこれならなおのことです。『フランケン・ふらん』は木々津漫画である『名探偵マーニー』や『兄妹』とは延長戦上ながらも、それよりも更に強いオチの味わいを持っています。それも美味ではなく、えぐみ。アクが強いと言った方がいいでしょうか。導入でも書いているように、オチ具合が既存のそれよりも独特で、まさしく木々津エンドという言葉がしっくりくるのです。特に、医療という側面があるので、前掲二作に比べて絵としてのグロがそれを倍加させます。2話目のいきなり解体されているヴェロニカとか、この漫画のノリが久しぶりだったので木々津漫画に慣れ親しんだ自分でもしばらく思考停止してしまいました。なんかおかしいぞ? と。これが初見の人だと、困惑というよりそういう解体が起きているという事実にすら突き当らないだろうくらいに唐突ですが、しかしこのグロさが2話ではジャブだったりするのが侮れません。その後のQOEの話のグロさは、絵的なグロさに精神的なグロさも合わさって、後味が悪すぎるにも程があります。意味が分かったら胸糞案件なので、嫌いな人はてきめんに嫌悪感で汚染されるレベル。でも、うん、これこれ! となってしまうのが木々津漫画に毒されたものの末路、キギツストの末路なのです。マーニーも兄妹も好きだけど、やっぱり映像的にガチのグロで攻めてこないと!
 さておき。
 先述の通り、『フランケン・ふらん Frantic』は3話しか入っていません。残りは読み切り2作とVS開田さんです。読み切り二作の方はちょっと木々津漫画にしてはアプローチが違う感じで、平素の話に見えてファンタジーな感じ、しかしグロい。という言葉にするとわけのわからないものです。個人的には犬の話の方が好きですね。実際に会話で来たら、というファンタジーががっつり縊りころころされるとこがいいです。
 VS開田さんは『開田さんの怪談』の方のVSの前の話。開田さんがふらんについていって酷い目に遭うという話です。バトル要素がないけど開田さんの勝ちみたいになっているのが好みです。この話で見ると、開田さんってかわいいなあ、でありますし。徐々にミステリアスから年ごろの少女の側面を濃くしていった過程の一端という感じです。そしてふらんは相変わらず可愛いというより不穏を感じさせます。底抜けのお人よし(婉曲表現)の部分が本当に不穏なんすよね……。根底からして普通の人とは遠隔地にある精神ですし。そこが本当にこの漫画をオンリーワンにしているなあ、と感慨を持ったところでこの話終わり!

 今月のまんがタイムきららチェックポイント(2019年7月号)

先に総評

 今回もゲスト少なめで、今のきららの形はこれだ! という大言を吐きたいところですが、今回はきららミラクからのロングデイ・オブ・アマクダリ枠、はりかも『うらら迷路帖』と鴻巣覚『がんくつ荘の不夜城さん』が終了の運びとなりました。どちらも終わりに向かって動いていたので、この時に対する心の準備はしてきましたが、それでもあまりの脱落痛でめまいが発生しましたよ。連載枠自体は埋まっているものの、個人的にはノれないのが結構ある為、ノれていたのがなくなったらそりゃ痛いですよ。あいたたたたた!
 とはいえ、新人枠が全く駄目ということでもありません。古参の荒井チェリー先生の『むすんで、つないで。』などは開幕からミステリアスでありつつ、つなぐちゃんさんの人当りのいいクズ具合というのをしっかり出してくる荒井チェリースタイルは相変わらずの切れ味です。それもあって一話目から完成度が高く、つまり完璧な一話というのがどういうものか、というのの具現ともいえるものとなっております。荒井チェリー先生に対して侮りはないと思っていたんですが、それがまだ侮っていた、というのを痛感させられる一作になっております。これの為に、きららを買う。そういう覚悟が出来ました。とかなんとか。

個別チェック三連弾

  • はりかも『うらら迷路帖
    • 最終回は成長した皆を見てほっこりするんだろうなあ、という懸念を持っていましたが、実際そうでしたが起伏はきっちりあって、後、細かい人と人の機微がちゃっかりあって、万全の態勢で最終回にもってこれると、ここまでの上がりしろがあったか、とおののくレベルで仕上がっていました。椿先生とのノノさんのカップリング! そういうのもあるのか。それ以外にも臣さんの進路具合とかも、細かく刻んできて、もう好き。はりかも先生、お疲れさまでした!
  • 大熊らすこ『星屑テレパス
    • んあー!! ←ただ自己紹介をする回なのにこの展開の張り様が堪らぬ! という感じに。
  • 鴻巣覚『がんくつ荘の不夜城さん』
    • 白仙ちゃんさんと不夜城さんの百合な仕事関係は今から始まる! って感じでありましたね。こっちも年月がかっとんでますが、白仙ちゃんさん以外は年取っているように見えないので怖いですね? 後、白仙ちゃんさんがやっぱり攻めは激強、守りは激弱。というのを覆していたのが好印象でした。成長! でもちょっとそれのかけらは見られる。弱点は弱いから弱点な訳で! そういう部分がやっぱりしっかりしてたなあ。ということで鴻巣覚先生、お疲れさまでした!

今月のワンワード

  • 阿部かなり『みゃーこせんせぇ』より

ギャアアナンマイダァー!!

  • 新たにホネの体質が発覚! 骨が多い所に行くと骨姿に戻ってしまう! すいません、理屈が全く分かりません。というかそんな小ネタだされても! 今後骨の多い所なんてほとんど行かないでしょー! だからこそネタのつるべ打ちだったのかもしれませんが。

 感想 ふかさくえみ 『鬼桐さんの洗濯』2巻

鬼桐さんの洗濯 2 (バンブー・コミックス)
鬼桐さんの洗濯【カラーページ増量版】 (2) (バンブーコミックス)

hanhans.hatenablog.com

 大体の内容「ふかさく先生が洗濯ガチ勢になっていく……」。鬼桐さんと茶子さん、そして妖物さんたちとの交流を描きつつ、洗濯については完全にガチ勢、毛なら毛用、つまりシャンプーだ! とかやりだしている段階で完全にガチ勢(重要なので二度言う)な漫画なのが、『鬼桐さんの洗濯』なのです。
 基本的には妖物、それも洋の東西を軽くまたいで、出せるなら色々出そう。という感じのこの漫画ですので、季節物もきっちりと。それの代表格はやはり年末の魔物じゃねえ風物詩、サンタクロース。その服の洗濯に、という話があったりします。そこでは、トナカイさんが人間の姿でこの時期はうろついているのか、というのがあったり、サンタ装束の洗濯出しが当番制だったりとかで、そういう部分を見るのが大変楽しい回でした。
 しかし、季節物では梅雨時期の話、つまり傘の回が素晴らしい。番傘のバンさん(当然妖怪)と魔王君との、そしてその間に入ってきた厄介物のビニール傘の三角関係! どっちらも性別的には雄っぽいですが! なのです。ここの良さというのは魔王君がバンさんを大切にしているからこその三角関係だというところです。同じのを使い続けるより、適宜交換した方が持ちが格段に違う、というあれです。
 それでも浮気性! となりかけますが、でも、幼少期、まだ番傘なんて持てない頃から使おうと必死になっていた魔王君というのを見せられると、それだけの間柄のバンさんを長く使いたい、という魔王君の純粋な想いにいい話じゃねえか! ってなってしまいます。まあ、バンさんは一回全とっかえされた過去がある、というので妖怪、特に器物怪の心とはどこにあるんだろう、という深淵な問いが投げかけられたりして混乱するんですが。
 で、ビニール傘の方も相当重いタイプ。雑に扱われ捨てられ、というので恨み骨髄、ねえけど、で妖怪になってしまっているのを、それなら使ってやらあ、という魔王君なのです。男気があります。でも、相手の気持ちに頓着が足りてないので、まだまだです。とはいえ、誰かが使ってやらないと祟りしそうでもあったので、その辺を考えているのかも。とりあえずそのままだとこう着状態なので、第三の手を打って、でもそれもまたヘイトを溜める形になったのは、まだ青いということなのでしょうか。こういう気遣いが出来るから、案外学校とか密かにモテてそうですね、魔王君。
 さておき。
 この漫画はクリーニング店の話なので、当然洗い物、特に汚れ物に対する洗浄の話題が出てきますが、それがどんどんガチ度を上げていきます。もとよりしっかり下地を持っている漫画ですが、なんか方向性が難物に向かい始めており、特に先述の毛物に対する、なら毛用の物、つまりシャンプーで洗えばいいじゃない! という話が出てきた時の、それやな! 感は異常でした。ケイトじゃねえ毛糸や羽毛、毛皮は確かに毛。それなら毛を洗う専門のシャンプーやリンスを使うのは間違っていない! とエウレカです。シャンプーにある毛髪の油脂を補う効果が、他の毛物でも大活躍! ウハウハだな! ザブーンだぜ! というテンションではないですよ勿論。こっちが知ってそうか! ってなった時のテンションです。
 このガチ洗濯勢具合は、ふかさく先生がある驚異の資格を取る段階までになっており、それを巻末あとがきで知ったこっちはもう、ガチ勢じゃねえか! という声を大にして言わざるを得ませんでした。4コマ漫画を読みながら洗濯について学べる漫画、という言葉が事実である形になってまいりましたよ。描き下ろしのところでも1ページ使って汚れ落としの薬品について多めの種類を軽く説明する、という漫画じゃない! というのもやってきます。後、巻末にある参考文献が、その道の人から見てもガチらしく、帯にその旨が記されており、つまり本当にどこまでガチ勢なんでしょうか。どこに行っちゃうんでしょうか。
 さておき。
 この漫画は人と妖物との触れ合いというのがもう一側面ですが、今回も色々とそれでいい場面が多かったです。煙々羅の人とそのパートナーの人の話が、1話だけの展開ってちょっと勿体なくね!? というくらいいい話だったりします。煙々羅は煙がないと消えてしまう、というのでそのパートナーの人がたばこを吸う! ってやったら肺を悪くしたりとか、もう胸熱です。いいやつやん! そして煙がないと消えてしまう、けど実は水蒸気でも問題ないと分かってから、ならもう縛る必要はないですね、っていうパートナーの人。お前は! ですが、煙々羅の一緒にいる! というのが通って、一件落着。素直に人と妖怪の縁が繋がれつつ、要所で洗濯の話もあって、大変いい話でした。パートナーの人の人間が出来すぎていて、でもだから離れた方がって言っちゃうのが良かったですね。
 さておき。
 この漫画の人と妖物との触れ合い、でいうと鬼桐さんとトキエさんの話は避けては通れません。1巻でもたった1カットでナイスエモーショナルだった鬼桐さんとトキエさんの話は、今回もわりとワイドに語られます。
 一つは、トキエさんが天涯孤独になった時に、鬼桐さんと出会って、それからトキエさんが死ぬまで鬼桐さんとの仲を維持したお話。いつの間にか育てていたのが育てられていたみたいな恰好になっているのが胸熱です。そもそもの出会いが、関東大震災の頃に、というので鬼桐さんがマジで年取ってないんだな、というのが分かりつつも、それだけ長く生きていても意外と抜けているし、そこをトキエさんにからかわれていたんだな、と。そしてトキエさんが最後に残した言葉の余韻が良過ぎてもう駄目。エピソードが重ねられたらその株がガン上がりするだろう、と思っていたんですが、それがきっちり出されるとやっぱり胸熱です。いい話だなー。
 もう一つは商売敵のミミカさんが、過去にトキエさんと何やら親し気にしていたことが発覚する場面。ミミカさん(天使。用語ではなく事実上の)とトキエさん一体何が2人の間に? それを鬼桐さんは知らないっぽいので、何やら密約があった模様です。それが、ミミカさんがクリーニング店をしているのと、ついでに商売敵なのと何か関係が? そういう謎を密かに流してくるの侮れません。というかトキエさん株がどんどん上昇していくんですけど、いつか霊として現れたりとかするんでしょうか? 幽霊はまだ出てないので、いないか、まだなだけなのかですが、どちらにしても出てきたら一波乱ありそうです。
 そんな感じで洗濯ガチ勢しつつも人情話が綺麗に決まる。3巻以降も期待したい、あるいはアニメ化すら期待したい。ちょっと地味かな? という感じの妄想をしてしまう、『鬼桐さんの洗濯』なのでした。

 感想 OYSTER 『新婚のいろはさん』3巻

新婚のいろはさん(3) (アクションコミックス)
新婚のいろはさん : 3 (アクションコミックス)
画像が紙版、商品名がkindle版。

 大体の内容「相変わらず仲がよろしいことで!」。今回も仲睦まじい夫婦生活。本当に……「ありがとう」…それしか言う言葉がみつからない…。というくらいに仲睦まじさが臨界を迎えて、しかしまだまだ仲は睦まじくなっていくんだぜえ! という漫画。それが『新婚のいろはさん』なのです。
 この漫画も3巻目、季節にして秋の気配となりまして、内容の方の色合いもまた変わってまいりました。しかし、その色に退廃のそれはなく、秋ゆえの色めき具合なのです。
 すいません。ちょっと語る事がまとまらないので変な叙述に走りました。ちゃんとします、が、しかし今回も基本イチャイチャしてた、で終わってしまう内容なのです。メインの2人である、夫のはじめさんも妻のいろはさんも、うぇーい! ってタイプじゃないので羽目は外さないですが、でもちょっと普通とは違う感じの羽目の外し方もしたりして、それがこの漫画の面白みとして立ち上がっているのですが、でもやっぱり超特筆! って感じじゃない微妙さもあり、つまり中々上手く言いづらいんですよ!
 また話がそれました。本筋に戻します。今回もこの二人らしいイチャコラをしていますが、個人的に好きだったところ、ところは多い。というか全部で、言い出すときりがないので三点にします。
 一点目。いろはさんと道の駅に行ったはじめさん。突然スマホを取り出し写真を、というのでいろはさんが撮られるのか、と構えたところではじめさんはその周囲を撮影。車の場所を忘れた時用の保険だったのです! のところが大変いいです。一点目から話が細かいですが、まあついてきてください。で、ですね、何がいいってやっぱりいろはさんが突如の撮影で「お、おう?」とか言いながら瞬時にピースサインをするところ、からの、周囲撮影でしたー、で「お、おう!!」って言っちゃうところですね。あまりに唐突で変な声出しちゃうところが最高です。でも、おうって勇ましい感じだなあ! というのと、実ははじめさんがそれ込みで狙ってやったのでは? とも思える点がいいです。それらしい描写が無いので妄想ですが! 後、更に細かく言うとピースサインのとこの擬音の、ぴす、が間の抜け具合があっていいなあ、とも。瞬時だったのでぴすになった感というか。拙速の感じがひしひしでていて堪りません。こういうとこよ!
 二点目。はじめさんの恩師の所にいく回の、その恩師が「この男はマンガ以外の事が本当にからっきしです。くれぐれも頼みます!!」というシーン。基本おちゃらけな恩師なのに、そこだけは本当にきっちりとしていて、それがゆえに本当にはじめさんのことを気にかけていたんだなあ、というのが伝わってくる、この漫画では珍しく真面目にいいシーンです。その後で、弟子の自分がしっかりしておかないと、恩師に迷惑が掛かる、というはじめさんの真面目なところも出てきて、入りはコミカルだったのにわりと真面目、シリアスではない、に終わった、と思ったらいろはさんの奥さまムーブ! で色んな意味で捗ってしまってもう駄目。匙加減が絶妙な回となりました。好き。
 三点目。夫婦喧嘩回、ではなく、その次の星の良く見える公園回。イチャコラ回は毎度ですが、この回はこの漫画の良さを全て煮だしたと言ってもいいレベルで、全要素OYSTER味といっても過言ではありません。もう、本当に全部オイ先生の味わいなのです。どこを取っても最高、勿論OYSTER味として、なので、とりあえず初めて見るならこの回なのでは!? と最新刊の最後の方を指して言うという暴挙にすら出たいくらいです。一番好きなのは「この山の高さを有効利用しましたね!!」ですね。大したこと言ってないのにテンションで言って/行ってしまうオイ先生の基本スキルの最高峰です。だからどうした感が半端ねえんですよ……。このネタだけでこの星の良く見える公園回は成り立っているんですよ。冗談です!
 ということで、いつものイチャコラ漫画でありつつも、やっぱりオイ先生の味はいいなあ、と思わせるところもきっちりある。そういう、ある意味神回ばかりな気がする、という儲話をしてしまいました。特に難しい設定とかもないので、3巻からでも容易に入れるので、こっから入るのも問題ない! と強弁して、この感想を終えたいと思います。

 感想 桜井のりお 『ロロッロ!』2巻まで

ロロッロ! 1 (少年チャンピオン・コミックス)
ロロッロ! 1 (少年チャンピオン・コミックス)
表紙絵は紙、文章はKindle

 大体の内容「ヘンタイだー!」。一部クラスタでは『僕の心のヤバイやつ』が仕上がる程に変態度が増していくという謎の同期が起きているらしい、そんな危険な漫画なのが『ロロッロ!』なのです。
 もう少し内容の説明をすると、森繁さん家のちとせさんは友達いないボッチ系少女(12才)。そのボッチ力がいい加減ヤバイ、と感じた父さんが、その有り余り過ぎてどうしてそんなところで普通に生活しているんですか? というレベルの科学力で作り上げたロボットのイチカは、しかし性能が高過ぎて誰もロボットとは思ってもらえない。ちとせさんにも当然です。そんな中で、イチカがちとせさんの友達作りに奔走する、かに見えたのにどんどん変な方向に突き進んでいく。それが『ロロッロ!』の大体の内容です。僕ヤバが少年期の青春性のヤバさの顕現だとすれば、ロロッロは少女期の変態性のヤバさ、その顕現だと言っていいでしょう。そんなものがあるのか? という問いにはお茶をガンガンに濁していきますが、それはさておき。
 この漫画の良さ、というのはそのまま変態性の良さになってしまう部分が多く、その変態性を見事な筆致でギャグにしていく様などは本当に天賦の才という言葉がしっくりくるくらい、とにかく変態的ネタがギャグとして昇華され、でもやっぱり変態なのでは……? と惑乱させられる出来栄えです。個人的に2巻登場の美術部(中略)会のトップの人が大変頭おかしくて好きです。脱ぎ癖があるというだけでヤバイですが、この漫画だとイチカを筆頭に結構脱ぐやつが多く、そのせいで実際ヤバイのにマイルドになってしまっている点がヤバイです。それ以前に美術部に対して美術部(中略)会のアプローチがおかしい、というかその会の存在自体がおかしい、というのでこの学校大丈夫なのかなあ、という疑問符が浮かんできます。というか会として成立しているのが美術部の部長さんが馴染みだから、という完全に温情案件な時点でお察しとしか。これでついていくやつらがいる、というのもかなり訳分からんです。その年で百合女子、って極まっているなあ……。
 さておき、桜井のりお作というと特に変態ではないのに変態扱いされる父の存在ですが(偏見)、森繁父も局面局面で変態に見られてしまう行動、特にイチカのメンテナンス中はその率多し、をとってしまいます。この辺の流れの美しさと汚いな流石桜井のりお汚いとしかいいようがないヤバさの混交っぷりが本当に素晴らしい。特に三者面談回の、そのまま行ったら変質者として捕まる! というそれはそれでどうなんだろうという理由でホログラムで参加したら、やっぱり普通に変質者だった、という展開の無駄の無さと美しさと汚さが大変良いものだったかと思います。というかトイレに行く時服脱ぐ人って本当にいるんだな。←架空の人です落ち着け
 さておき。
 この漫画はちとせさんの友達を増やしていこう、という意志力が無い訳ではない漫画です。その中で、ちとせさんと友達どっちが早く作れるか! と勝負している戌井うみこさんの存在が大変良いものです。昔からその友達を作る、というので張り合っている、という段で、え? お前らもう友達じゃね? みたいな感じを読者側は持たされるんですが、その位置が全然崩れず、ずんずんと進んでいきます。なので要所要所で、え? お前らもう友達じゃね? という感想をもたらされて困ります。しかも結構仲いいだろまであります。なのに友達ではない。この距離がいつ崩れるか! という興味が尽きません。その辺は桜井先生も分かっているでしょうから、かなり連載後期にならないと、でしょうけれども。でも、そこまで行ったらこの漫画は一体どうなっているんだろう……。という謎の戦慄を持ちつつ、3巻読みますので失礼。
 

 今回のまんがタイムきららキャラット三作取り上げ(2019年7月号)

承前

 まんがタイムきららキャラットから三作を取り上げて、それぞれについて感想を書くという試みです。三作だとバランスがいいのです。たぶんきっと。きっとたぶん。
 選ぶのは好きな作品。とはいえ、号によって振れ幅がありますので、最大のゲインがあるやつ優先です。その方が楽だしね! 楽はしたい。
 それではいってみましょう。

伊藤いづも『まちカドまぞく』

 前回のもめ事を一件落着させたシャミ子。しかし、自分の能力で洗脳バリバリNO.1だったのでは? となり落ち込んでいるところに、桃さんが忍び寄る……。
 と書くとかなり語弊ですが、最終的にシャミ子の桃さん株が爆上がりしたのであながち間違っていないというのがこの漫画の良い所だと思います。あと、シャミ子が偽りの平穏を……、ってなるところもこの漫画の良い所です。そういう部分がある、というのを忽せにしないという手管! それでいてちゃんと収まる形に収まるのだから、やり手としかいいようがありません。好き、好きぃ!
 しかし、シャミ子の家の周りが騒がしくなり過ぎていて、逆に言うとこれが崩落すると……。って考えたくない考えが考えられるので困ります。この騒がしいのが、いきなりなくなるって嫌だなあ。でも、いずれやってきそうだなあ。そこんとこも信頼しているんだけど。でも怖いなあ。とかなんとか。

浜弓場双『おちこぼれフルーツタルト』

 利音さんの、アイドルを目指さなくなった理由とは……。とかやってんのに側であたまおかししているから、この漫画は……。ってなります。なんやねん10階以上ある建物にはムラムラするって! 毎度訳の分からんフェチをぶっこんできやがる……。
 そんな中で、自分はアイドルを諦めたのは……。となる利音さん。自分の中にあるそれに蓋をしている。という状態です。しかし、『シグルイ』の名言を持って言えば、開かんと欲すれば、まず蓋をすべし! な訳で、この蓋がここに来て一気に開いてしまう可能性がかなりある、と言えるかと思います。果たして、利音さんのアイドル道が、開かれてしまうのか!? そして衣乃さんの絆創膏の行方は!? 最後気にするの、正直止めたい! でもすぐそのタイプのネタ振ってくるの、この漫画!

大沖はるみねーしょん

 地球を離れることになったはるみさん。理由はビザ! というよくよく考えると正しい話なのに理不尽に感じてしまう辺り、この漫画に慣れ親しんだんだなあ。という感慨を得ます。正直に言っていつ終わっても特に問題がない内容な漫画でしたが、終わる、と言われるとなんか変な気持ちになります。キャラット買うようになってからずっとあった漫画が終わる、って相当ショックな出来事ですよ。そうかー。
 今回の内容の方もいつも通りにしながらも終わるんだ、という雰囲気を出してくるので、なんか本当に終わるんだなあ。って納得がしこたまありました。そうか、本当に終わるのか。

 感想 画・横田卓馬 原作・伊勢勝良 『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』1巻

すべての人類を破壊する。それらは再生できない。 (1) (角川コミックス・エース)
すべての人類を破壊する。それらは再生できない。 (1) (角川コミックス・エース)
地味にAmazonで紙版が高値というぼったなので、Kindle版のだけ貼ってます。

 大体の内容。「この漫画を読んだ時、カードゲーム好きは+4/+3する」。神納はじめは、とある中学校の優等生。学業は学年二位を誇り、<マジック:ザ・ギャザリング>の腕前も中々。しかし、彼にはまさしく目の上のたんこぶ、常に自分を抑えて学年一位をとる女子、沢渡慧美さんの存在がありました。いがみ合う二人ですが、ある日はじめが地区のカードゲーの中心地に行くと、そこには彼女、沢渡慧美が! 並みいる強豪を叩き伏せる彼女を前に、はじめは戦いを挑む、のだけれど……。という感じで、青春とカードゲー好きだなあ、という向きに対して強力なバフをする漫画、それが『すべての人類は破壊する。それらは再生できない。』なのです。
 ゲームと青春、というものは、我々、というかアラサーからアラフォー辺りには深く根差している文言だと思います。常に寄り添ってあったがゆえに印象に残っているゲームと、常に側にあるのに届かなかったがゆえに印象に残っている青春。それが抱き合わせ商法されたら、反応しない訳にはいかないやろー! という方は多いと思います。そういう部分の少し上の年代向けが押切蓮介ハイスコアガール』な訳ですが、それはさておき、実際の内容の方も、どちらも、つまりカードゲーの部分も青春の部分も、全く抜かりなくやっておられます。横田卓馬せんせ、流石背ピンの人です。週刊連載という天才の仕事をやっていた人というのは違うな、というのも感じさせる作りとなっております。
 まずカードゲー、つまりギャザですが、これについては実は門外漢、<モンスターコレクション>勢だったのです、なので最初大丈夫? 楽しめる? って思ってたんですが、まあその辺は全然大丈夫なんですよ。勿論、本当の門外漢、カードゲーがドさっぱりだとちょっと難しいかな? というきらいはあります。ですが、ほんのちょっとでもカードゲーをかじっていたら、成程、分かる。というくらいにはきっちりと説明の注釈があります。その辺の手筋はしっかりしているのです。
 そして、それ以上にこの漫画を分かる。とさせるのは、カードゲーにある細かい機微に対して非常に丁寧な手つきでやっていることです。それは、ゲーム内容もさることながら、ゲームに対する様々な要因に対して芸の細かさを見せつけている点です。
 個人的にいいと思うのは二点。
 一つは、色々あって学校ではギャザやっていることは秘密な沢渡さんと一緒に、人の来ない神社の境内でブースターパックを開封する所。このシーンの、カードゲーやっていたことがあるなら凄まじいのレベルで「あったあった」の連呼が聞こえる内容です。どのカードが自分にとって当たりなのかというのを話したり、目当てが出るように祈ったり、開封したてのカードの香りを嗅いでみたり、結局欲しいのは相手の方が手に入れてとか、ちょっとした開封の儀の悲喜こもごもがこもり過ぎていて、個人的に大変好きなシーンとなっております。特にカードの香りを嗅ぐという、一見変態の、しかし、その気持ち超分かる行為が堪りません。匂いを嗅ぎたくなる、というのはかなり重度、二ンフォともいえる領域です。しかし、それだけ好きなのです。例えば本好きがかび臭い本の香りを堪能したくなったりするのと、例えば美味しいけど変な匂いの料理の香りを余さず嗅ごうとするのと、それは同値の行為/好意です。そこまで好きなのです。だからこそ、やってしまう。その好き加減が堪らなく愛おしいのです。そういうの、あったなあ! というやつです。
 もう一つは、この時期のカードゲーの環境、という部分が端々に描かれているところ。時代は1998年。まだ二十世紀です。ネットはまだまだ浸透し始めの頃。となると当然情報はすっとろい時代。その上で、リアルカード、この言葉も中々変ですが、が高値で流通するような時勢です。その部分の機微が、本当にしっかりしているのです。特に、この漫画のカードゲーの中心は純喫茶しぶやまという場所なのが、つまりカードゲー専門店ではないのが、よりリアリティを持っています。ギャザの普及しだした頃合い、というのでは、専門店ってまだ全然少なくて、こういう全然関係ない業種のところで、あるいはそういうのを受け入れる土壌がある場所で、カードゲーはされていたんだよなあ、というのがあるんですよ。モンコレの頃でも、カードゲー専門店とか、デュエルスペースとか、全然少なかったし、ゲーセンでブースター売ってたり対戦してたりしていたことを思うと、それがギャザならこういう状態はむしろあったろうな、と思わせるものがあります。そういう部分が、全くさり気なく出される。これが、この漫画の優れたところです。多過ぎないけど少な過ぎない。適切な情報の提示! これが上手いといって差し支えないかと。
 この情報の出し方、というのは、カードゲーの話を書く上ではかなり重要です。例えば対戦において両者の手札が完全に分かってしまっていては、どうなるんだろう、という盛り上げがしにくい。あるいは不可能です。しかし、全く出さない訳にもいかない。完全な不意打ちはご都合主義ともとられかねません。なのでその辺の情報の出し方が、カードゲー作品ではとても重要になってくるのです。*1
 で、この漫画では、というのはおーるおっけー! という鼻声が出るものです。対戦において、隠し過ぎず、しかし出し過ぎもしない。これが決めカードだ! というのを提示したところで水入り。その後の再戦でそれを、とか、このカードが使いたい、けど難しい。どうしたら。という情報の提示をされるのです。対戦の状況とかもモブの人が色々と言ってくれるので分かりやすい。ちゃんとどうなのかと提示してくれます。やっぱり週刊連載した人は天才という言葉は真実だな、というくらいに卓抜なのです。恐ろしい子
 さておき。
 ゲーム部分の話が長くなりました。青春の方面もきっちりと見ていきましょう。そもそも、二人、つまりはじめと慧美さんは小学生からの仲。その頃からずっとライバル関係、というもう後は完全に好き同士になるしかないやん! と恋愛脳でなくても思ってしまう間柄。その上で、慧美さんの知られざる側面、つまりギャザプレイヤーという秘密を知ってしまうし、それを秘密にすることを頼まれる。そして当然はじめは言わない。もう関係性が強過ぎて三回くらい連続で天和してるんじゃねえかってレベルです。その後はその関係性を突っつくだけで話が転がる状態。強い。
 ここまで青春がぶっこまれると、同じようにゲームに、エイリアンソルジャーに青春を賭した『異世界おじさん』のおじさんに謝れ! 謝れよ! という謎の言葉すら出てきます。どこをどういったら、あんな奇跡的な関係性が構築出来て、でもゲームも出来るって状態になるんだ。はじめは前世で相当の徳を積んだの? そんな言葉も出てきます。ある種怨嗟というか、出来なかった者の戯言なのですが、でも本当にあいつ凄い状況にいるんだぞ……。って顔にもなろうものです。それだけのことですよ、この環境……! お前その青春絶対忘れるなよ! と言いたい相手が、『シネマこんぷれっくす!』のガクト一人から、二人に増えました。もう一度言うけど、お前その青春絶対忘れるなよ!
 とかなんとか書きましたが、青春面もしっかりしつつ、ゲーム面もしっかりしている。それが『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』の得難いところなのです。ゲーム物作品では川上稔『連射王』、とよ田みのるFLIP-FLAP』と三指を形成できるくらいに優れている、というのは過たず伝えたいところ。これらに引っかかった人は引っかかってみたら? と記述してこの項を終えたいと思います。

*1:邪武丸ありさデュエルバース』はその辺が超上手かった、と好きな漫画なのでさり気なく推しておきます。