感想 小林銅蟲 『めしにしましょう』1~6巻

めしにしましょう(6) (イブニングKC)
めしにしましょう(6) (イブニングコミックス)

 大体の内容「旨い物はもっと旨く。もっと旨い物はもっともっと旨く!」。料理漫画は数あれど、その際限のない追い込みは他の追随を許さない、というか、こんな業の食なんか誰が追いかけるか! な料理漫画。それが『めしにしましょう』なのです。
 『めしにしましょう』は中々に異形です。料理漫画というよりDIY漫画というべき有様ですから。いや、料理漫画なのです。ですが、作る役である青梅川さんが美味いのはもっと旨く、をモットーとしているために発展意欲が強いのと、温度や環境、道具などを駆使する為やや工学的なアプローチが多いので、これはDIY漫画と言えるでしょう。つまり料理DIY漫画なのです。どういっと ゆあせるふ!
 さておき、料理DIY漫画とは、という話をしないといけないと思いますので、します。一番好きなのは5巻収録の四十三の膳「正月的サムシング」。料理はド弩濃いコンソメです。もうこの段階で料理!? なアトモスフィアですが、このコンソメ作りはブイヨンから。まず強力な内容量のガラ(2馬力のミキサーを止めるくらいの鶏の皮など)をぶち込んで煮だして、そこにイセエビの殻やカニなどの強力な内容量をぶち込んで煮だして、そしてそこに金華ハムや干し貝柱などの強力な内容量をぶち込んで煮だして、という異常な煮込み欲に突き動かされるがままにつくるそれは、コンソメとは……。という立ち位置に我々を誘います。コンソメの抽出からの収集が、中央にパスタケースを入れてくぼみを作り、そこに溜まったのをサイフォン方式で吸い取るというものなのもDIY感を思わせます。普通に取れなかったかって? ガラが寸胴鍋に目いっぱいだから持ち上げられねえんだよ! というのでもう、どんなもの作っているんだよ、です。
 それで出来たコンソメと言うには歪なそれは、しかしそれゆえにあまりにも濃く、美味いんだけどというかもうこれ薬なのでは? という地点に到達しました。なんでそんなことばかり思い切りがいいの!? の画像を貼りたいくらいです。このコンソメ、1巻から6巻までの中でも屈指のレベルの、これ食い物の作り方なのか!? 案件です。これが唯一ではなく屈指、数えらえる部類だという時点でこの漫画の料理はおかしいと思っていただきたい。インスタ映えだとか、健康だとか。そんなものは、どうでもよかろうなのだあ! というくらいに振り切った料理の内容となっております。
 しかし、このえも言われぬガチンコ料理は、しかし美味い料理の延長線上。つまり、いつも喰うあれよりもっと旨いのだ! という風に見える為、登場面子の食した時のリアクションも相まって、手を出しづらいけど手を出してみたい、と思わせるものとなっております。作り方は逐一やっているので、それを追えば、とも思えますが、簡単に半日を費やしたりするので全くお薦めできないという、ある意味では生殺しなネタをぶっこんでくるのもこの漫画。料理者としては珍しく、最後にある作り方がフローチャート形式な点からも、これは熟練がいるな……。と察せられる仕様となっております。調味料の量とかも書いてないですしね。この迂闊に手を出しづらさが、この漫画の料理のハードルが高いのだと理解させる形となっています。でも、作れたら美味そうなんだよなあ……。
 さておき。
 料理漫画は料理以外も重要です。その点で行くと、この漫画の特徴はカオスとしか言いようがないものです。特にルンバ型掃除ロボットゆずが登場してからが本領発揮。ゆずがどんどん進化していくのと軌を一にして、この漫画のベースはおかしくなっていきます。しかし、そんな無茶なのでも、料理という軸を入れる事によってきっちり話を構築する。その様はまさに暴威。普通に考えたら出来ないしない内容でもがっつりしてきます。大金をすった機械とそれと交流のある人間との逃避行とか。あれは何されたかよく分からなくて好きです。オチも綺麗で訳分からなかったですしね。
 そういう漫画としての軸と料理DIY漫画としての軸が奇妙なバランスで成立している漫画。それが『めしにしましょう』なのです。