きらら少巻数終了作品の世界にようこそ 第三回

この項について

 この項はきらら4コマ誌の少数巻終了作品、つまり2巻乙、3巻乙辺りの漫画を掘っていく、というものとなっています。4巻を超えると、きらら漫画としてはかなり誌面に影響力をもたらしています。かのかきふらいけいおん!からして4巻完結ですから。一応後々色々出マシタケドネ!
 なので、その前で、という作品をちょっと気合を入れてやっていきます。もっと好事家に知れ渡るがいいや!
 今回もかなり古い作品、というのに気づいてアイエッ!? ってなりました。もうそんなになるのか……。まだ自分には新鮮だというのに……。十年ひと昔とは言うけど……。
 という、年寄りのくだまきいいはさておき、それではいってみましょう。

第三回 蛇足せんたろう『ヒメとトノ』

いいか! ここで『ヒメとトノ』の基本ラインについて説明しておくぞ!(ホワイトボード打)

 『ヒメとトノ』という漫画は、単純に言うとラブコメです。
 複雑に言うとややおエロ者のヒメ君とクールだけど奥は甘々なトノさんが、基本ドーナツ店で気持ちがすれ違ったり気持ちが当たったりする漫画です。ちょっとエロス!((c)佐天涙子)もあるよ!
 ということで、この漫画はヒメ君(当然男)とトノさん(当然女)のお話となります。
 クールなんだけどヒメ君に特大感情を持つトノさんの気持ちを魅せつけられつつ、二人の恋路というか、どこまでいったらこの二人告るんだろう。というのを見ていく作品ともいえます。典型的ラブコメです。
 だがしかし! まるで全然! この俺を萌えさせるにはド直球なんだよねえ!
 この、クールとデレの合間をスゥイングしていくのが、堪らなく堪らない。見るたびに悶え苦しむ。尊いとはまさにこのこと。そういう、トノさんの一挙手一投足に悶え見る漫画。それが『ヒメとトノ』なのです。

これヒメもヒメだけどトノさんもトノさんだよね?(早口&擦れ声で)

 このタイプのベタなラブコメの味わいは、もう一世代前のそれな感があります。
 それもそのはず、この漫画の連載時期は、まんがタイムきららMAX誌に平成21年9月号ゲストから、平成21年12月号~平成24年1月号まで連載です。つまり大体10年前の作品なのです! 成程の一世代前感といえましょう。
 しかし、一昔前、だからこそだろうがっ! とコミックマスターJさんも言っているように(言ってない)、今ではあまり見なくなった、あるいは要素としてはあるけど突き詰めることなく平素にあるネタを、駆動系に
、主体にしているのが、この漫画なのです。
 話の形もシンプルですが、登場人物も基本二人とシンプル。ここにもう一人&一人いますし、ガヤもいますが、やはり基本はヒメとトノさんです。
 この絞り切ったがゆえに出来る高濃度且つ鋭利な萌えラブコメこそが、この漫画を10年以上経っているのにお薦めしようとする動機になります。
 それくらいに、この漫画のワンシチュエーションラブコメっぷりは今にもきっちり通じる尖りをしているのです。
 詰まる所トノさんがクールに接してしまうけど、本当は大好き! でも勇気が出なくて……。という親の顔より見た展開を、しかしこの漫画らしくきっちり仕上げ――それゆえにトノさんもトノさんだよな、ってなりますが――、魅せつけてくるのです。
 ベタベタな気がするんですが、クール系女子がデレそうでデレない。それに特化したからこそ出来る、ニヨニヨの世界なのです。

焦れ点を絞る

 さておき、この項を書く為に再読した訳ですが、やはり大変良い、と言える漫画です。
 お前らもう付き合ってないとか無理やろ。というレベルなのに、お互い好きなのに、まだ一歩踏み出せないヒメとトノさん。
 この一歩を踏み出せないまま、というのを毎話毎話、そしてほぼ2巻全部使って焦れ焦れさせられる。
 この焦れは、当然読者側にはきちんと見える栄光のロードが、しかしトノさんには遠くに見えているという形が生み出します。
 言ってしまうと、この漫画のゴールはあまりに明確に見えます。ですが、そこに至るにはトノさんの気持ちは大き過ぎる。ためらいが出るくらいに、ラブの力を持っているのです。
 その上で、トノさんに寄った視点で読者が見ている為、トノさんがためらうのも分かる、けどやっぱいけや! という感じに、ゴールに対する視点の違いが生まれます。ここで、我々は焦れるのです。
 ラブコメは基本ゴール地点は明確に見えつつも脇道を用意してる揺さぶるものですが、この漫画は脇道を基本用意せず、『ヒメとトノ』の路線を確定的に明らかにしています。
 なので、トノさんが好きって言えない、クールな面が上っ面として出てしまって、というのが焦れるポイントとして絞られているのです。そら見てる方からしたら焦れる以外ないやろ――――
 二人の関係に、そしてトノさんの情緒に絞られているからこそ、そこ以外を大胆に省き、シンプルに2人の関係にニヨニヨし、ヤキモキ出来る。シンプルイズベストな焦れ点が見せる軌跡。それがヒメとトノを豊かに彩っているのです。

汝クーデレラなりや?

 このトノさんを表す言葉としてクーデレラがありますが、これは既に過去の遺産となって久しいものです。死語と言っても過言では無い。
 しかし、今においてこの漫画、及びトノさんを見ていると、一種リバイバルとして、実際の時期としては丁度世代だったんですが、クーデレラが屹立してきます。
 何故か。それだけ濃厚に、クールなとことデレなとこの二面が存在するからです。
 クールな時、つまりヒメに好きな気持ちがあるけど、努めて冷静に見える動きでいなす時のクール具合は高い峰にある。あれだけの熱量で好きなのに、ここまで隠せるだけでスゴイ、んだけど、その裏ではどうしようどうしよう、というテンパりが、忍ばされている。
 それを、読者という一等地で見せられれば、この子推したくならないの嘘やろ――――。
 それだけこのクールな裏に秘めたものを読者視点ではもう駄々漏れ、という形式が、だからこそこの子がいい目にあってほしい、という感想をオートで垂れ流させるものがあるのです。クーデレ、いやさツンデレの基本構造というやつです。
 確かに、今の視点で見ると陳腐、という言葉もありましょうが、しかしこの漫画に分け入って見れば、もうこのクールなムーブの裏に恋心が爆発しているという、単純、だからこそだろうがっ、と再びコミックマスターJさんが言っていたように(言ってない)言いたくなるくらいには、このクーデレラ具合は切り立って存在しているのです。
 だから、焦れに焦らされ、クーデレラっぷりを魅せつけられ続けてきたこの状態が、最終回三話前できっちりと解放された時には、蝶よ花よという神経回路に接続されたくらいの一大インパクトでした。逆に言うとこの漫画もうちょっとで終わる! というのが分かった瞬間でもあるのですが。
 この流れから更に最終回でのクールからデレの新バージョンが開発されるに至り、彼岸は達成されました。この漫画をクーデレラ有形文化財にしたいです構いませんねッッ!! と勝手に認定したがるくらいには、最後まできっちりとクーデレラな漫画、となっております。
 これをもっといろんな人が知るといいや! というのが今回の取り上げの動機でもあります。それくらい、最後までクーデレラ物として最高だったのですよ……。

少数巻終了作品共通の弱点

 と、ここまで礼賛して、薦めておいてなんですが、この漫画、購入難度はそれなりにあります。なにせ10年前の漫画、それもきらら系の2巻乙漫画です。
 きらら系4コマあるあるですが、2巻乙作品は後から探すのは大変だったりします。最近のはkindle版がある場合もありますが、『ヒメとトノ』くらい前だと、kindle? おかか? みたいな世界です。
 中古市場を漁ればまだ全然あてはありますが、普通に漫画系の本屋でもおいてある可能性はゼロと言って過言ではありません。
 いや、言いきりましょう。ゼロだと。
 なので興味をお持ちの方は、BOOKOFFオンラインとかAmazonの中古本とかを活用していただきたい。
 繰り返しますが、普通に本屋に置いてある可能性はゼロです。中古以外は手に入らない。そういう覚悟をしていただきたい。
 と、無駄に煽りましたが、これはきららの2巻乙、あるいは3巻乙の後追いの難度を上げる部分です。本当に、ここ5、6年くらいのじゃないとkindleがないので、昔を掘り起こすのは中々に骨が折れます。
 幸い、とりあげるくらいに好きな2巻乙、3巻乙は手持ちがあるので、このシリーズもそれなりにやっていける道筋はあります。最近のなら最悪kindle版で購入出来ますから、これが長く続けばkindleのお世話になる場面も多いでしょう。まあそれはどうなるかまだ未明ですから、適当にやってまいりたいと思います。
 さておき、『ヒメとトノ』は2巻で終わっているので当該の難度はありますが、上手く集められる場所を見つけられればまだ入手は可能な域です。先に上げたBOOKOFFオンラインとかAmazonの中古を活用すれば、まだ手に入るラインです。大変いいクーデレララブコメ漫画なので、是非手に取っていただきたい。そう思う吉宗であった。と書いてこの項は終わりとします。

ヒメとトノ (1) (まんがタイムKRコミックス)

ヒメとトノ (2) (まんがタイムKRコミックス)

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